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そんなチートならお断りします。  作者: ぷりん・ざ・さーど・えくすぺりめんと
かんべんしてよ編
7/17

頭文字さん、かんべんしてよ。

「こ、この音は、もしや……」


 (じい)さんが(つぶた)いた。


 遠くから聞こえていた「クォーオオオン」という甲高(かんだか)い音が、次第に近づいてくる。


 やがて、音の方向、地平線の向こうから何かが土煙(つちけむり)を上げて近づいて来るのが見えた。


 音の発生源は、見る見る大きくなって来る。

 

 ……車?


 そう。自動車だ。

 べたっ、と地を這うような低い車高のスポーツカーが、爆音を響かせながら近づいてくる。


 ファオーオオオオオン……


 クリーム・イエローの車体が、あっと言う間に目の前を通り過ぎ、反対側の地平へと去っていった。


「おい、ソープラに乗れ!」


 神さま、キリッとした顔つきで、俺に言う。


「の……乗れって……いきなり……女神さまたち、置いていくんですか? あいさつもせずに……第一、俺を駅まで送ってくれる約束じゃないですか」


「いいから、つべこべ言わずに、早く乗れ!」


 半ば強引に、助手席に押し込められる。

 まあ、良いか。

 どの道、ここで女神さまたちと一緒に置いてきぼりを食らわされても、どうして良いか分からないしな。

 俺、ウシトラ語、分からないし。


 ドアを開けて運転席に乗り込む直前、神さまがウシトラ・ガールズを振り返って叫んだ。


「でゅわっ、でゅでゅわでゅわっ、でゅっでゅるでゅ~」

 

 バタン!

 ドアを閉めて、四点式のシートベルトを締める。


「い、今、何て言ったんですか」


「あ? ああ、『今、急いでいるから、後でメールする。じゃあな~』じゃ。それより、お前もシートベルトしろよ。飛ばすぞ!」


 言うなり、アクセル全開でエンジンを(あお)(じい)さん。

 回転計が、レッドゾーンを行ったり来たり。

 そして突然、クラッチが接続(ミート)された。

 ミクミク仕様のソープラが、後輪から白い煙を上げ、一瞬ケツのグリップを失いそうになるか、ならないか、その絶妙なタイミングで弾丸のように飛び出す。

 俺は助手席のバックレストに押し付けられた。


 しかし、謎のクリーム色のスーパーカーは、既に(はる)か彼方だ。

 追いつけないっしょ。

 この距離じゃ……


 ……ところが……


 謎のスーパーカーが突然、アクセルを(ゆる)めて、ほとんど徐行運転に近い所まで速度を落とした。

 それを見た(じい)さんも、アクセル・ペダルに()せた右足の力を抜く。


「や……野郎……誘ってやがる……馬鹿にしやがって!」


 神さま、歯軋(はぎし)り。


「だから、何なんですか。あの、ぱっと見、イタリアンなカッコ良いスポーツカーは……」


「マセラッTじゃ」


「はあ、聞いたことあります。やっぱ、イタリアの車ですか」


「ああ。じゃが、(ただ)のマセラッTじゃねぇ。その名もマセラッT・カルボナーラ……」


「ま、ませらっT……かるぼなーら……」


「この(あた)りの走り屋仲間で、知らぬものは居ねぇ……通称『クリーム色の悪魔(クリーミィー・デビル)』よ……」


「く……くりーみぃー……て」


「1970年代後半、イタリアはマセラッT社が、その威信を()けて製造に乗りだした、正真正銘の化け物(モンスター)よ。……じゃが、折りしも世界経済は第二次オイル・ショックの影響で不況の真っ只中(まっただなか)……その(あお)りを受け、急遽(きゅうきょ)制定されたUSA(アメリカ)の排ガス規制をパスできず、わずか数百台で生産中止を余儀(よぎ)なくされた悲劇の車体(ボディ)……それが、マセラッT・カルボナーラじゃ……現存する車体は、百台を割っているとも、わずか五十台とも言われている。その、数少ないマセ・カルボの一台がヤツだ……」


「は……はぁ……」


「やれやれ……こんな所で、お目にかかれるとはな。しかも、ヤツめ、見たところ、その化け物(モンスター)をさらにイジり倒しておる……もはや、原形をとどめぬ程にな。あいつは、まさしく、モンスターを越えたモンスター……超絶化け物(スーパー・モンスター)じゃ!」


「す……超絶化け物(スーパー・モンスター)っすか……」


 そうこうしてる間に、神さまのミクミク・ソープラは、その超絶化け物(スーパー・モンスター)だかクリーム色の悪魔(クリーミィー・デビル)だかの後ろ十メートルまでに接近した。


 再び、そのマセラッTが加速を始める。

 だが、その加速度は(ゆる)い。


「やはりな……誘ってやがる……良いだろう、誘いに乗ってやるぜ!」


 (じい)さん、加速する敵車(てきしゃ)の後ろに、慎重にソープラを付ける。


 その距離、わずか五十センチほど……


「わ、わ、神さま、危ないッスよ! 追突事故おこしたら、どうすんですか」


「何、心配するな。信じるんだ! 俺のテクニックと、このミクミク・ソープラの性能をなっ!」


 何か、カッコ良いこと言ってるけど、ハンドルを握る(じい)さんの手、老人らしくプルプル震えてるじゃねぇか。

 ほんとに、大丈夫なんかいな……


 ソープラがスリップ・ストリームに付けるのを待っていたかのように、クリーミィー・デビルが一気に加速を始める。


 百キロ、二百キロ……


 五十センチの車間距離を保ったまま、二台はどんどん加速していった。

 全く、こっちの心臓が()たねぇって。


「ヤツはな……」


 加速しながら、(じい)さんがボソリと(つぶや)く。


「決して、一人では……一台では(いど)んで来ねぇ……」


 チラリと、バック・ミラーを見やる(じい)さん。


「来るぞ……ヤツの相棒(パートナー)がよ!」


「フォオーオオオオン」


 確かに後ろから、なにやら甲高(かんだか)いエンジン音が聞こえてきた。

 俺が振向くと、そこには急接近する真っ赤なスポーツカー……


「シーフード・レッドに身を包んだ、あの車体(ボディ)は……その名も激辛の悪魔(レッドホット・デビル)!」


「れ……れっどほっと……でびる……」


「ああ。同じイタリアのタラコ社と合併することによって、何とか70年代の排ガス規制を乗り切ったマセ社が、80年代、はじめて世に問うた車体……その名も……タラコ・マセラッT!」


「なんか、もう、親父ギャク満点なんですけど……」


「それも、(ただ)のタラ・マセじゃねぇ……」


 俺のツッコミを無視して、じじいの説明ゼリフが続く。


「レース参戦を見据(みす)え、当時のクラスB車両規格に合わせるべく、エンジンをターボに換装、これまた(わず)か二百台しか生産されなかった、幻のレーシング・スペシャル……その名も……」


「その名も?」


「タラコ・マセラッT・TOKUMORI(特盛り)・スペチアーレ」


「と……特盛り……すぺちあーれ?」


「ああ、TOKUMORIの意味は、だなぁ……TURBO・ORGANIZATION……」


「ああ、いいです。言わなくても」


「まあ、とにかく、だな。クリーミィー・ホワイトとシーフード・レッド、赤白二色に塗られた二台のマセラッTは、この界隈(かいわい)じゃ、泣く子も黙る、通称……わきが峠の『紅白悪魔兄弟』……レッド・アンド・ホワイト・デビル・ブラザーズといやあ、奴らの事だ!」


「なんか、めでたい悪魔さんたちですね。それに、このあたり『わきが峠』って言うんスか……」


 そんな解説を聞いている間に、うしろの赤いスポーツカーが、ソープラの後ろ五十センチにピタリと付けた。


 つまり俺らのソープラ、紅白悪魔の兄弟に(はさ)まれる格好で、それぞれ車間距離五十センチで時速二百五十キロの縦列走行(じゅうれつそうこう)……。

 死ぬっつうの。


「よし、仕掛けるか!」


 爺さん、タイミングを見計らって、追い越しをかける気か?


 その時、うしろの赤いスポーツカーのエンジン音が一際(ひときわ)高まったかと思うと、先に俺らのソープラに追い越しをかけて来た!


「ちぃぃ! しまった!」


 (じい)さんが叫ぶ!


 赤と白、二台のスポーツカーは、並走(へいそう)する形で、車線を(ふさ)ぎ、ソープラが追い越せないようにブロックする。


「ああ、もう、追い越せなくなったんじゃ……」


 俺は(じい)さんに問いかけた。


「フッ……仕方ない……」


 (じい)さん、今日、何度目かのニヒルな笑い……


()()をやるか……」


 いきなり、(じい)さん、時速二百五十キロでハンドルから両手を離した。


「わっ! あ、危ないじゃないですか! ちゃんとハンドル持って」


「リン・ビョウ・トウ・シャー・カイ・チン・レツ……」


 (じい)さん、ニンジャみたく両手を使って空中で印を結ぶ。


「今! 必殺の……! ハイパー・ニトロ・スーパー・エクセレンッ……ト、ワァアアアアープ」


「……え?」


「い、今、何ていった? (じい)さん……」


「ハイパー・ニトロ・スーパー・エクセレント……」


「その後だよ、その後! 最後の単語!」


「わ、わーぷ……」


「何だよ。このソープラ、ワープできんのかよ!」


「……うん……」


「最初から使えよ!」


「あ、ポチッとな!」


 ぽわわわわ……


 間抜けな効果音とともに、俺らは次元(じげん)の彼方へと飛ばされた。

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