ああ、女神さま、かんべんしてよ。(その2)
あいかわらず下品です。
「ダーアアッ!」
ピチピチの女子大生、兼、牛虎マンならぬ牛虎ガール、兼、女神さまは、とても女子大生とは思えぬ野太い声を出して、サンダー・ドラゴンにタックルを仕掛けた。
そのまま、マウント・ポジションを取って怪獣の鎖骨あたりに手刀を何度も打ち付ける。
けっこう、えげつないな。女神さま。
「おーっ、と、サンダードラゴン、一瞬の隙をついて牛虎ガールの右腕を自分の両腕でがっちりと抱えたぁー! そのまま、ブリッジからのぉぉ……ローリング! 見事ガードポジションに入れ替わったぁーっ!」
「神さま、耳元で絶叫しないで下さいよ。それ誰のモノマネですか」
「古田チイチロウ」
「知らねぇよ」
そうこうしている間に、いつのまにやら女神さまとサンダー・ドラゴン、間合いを取って睨み合い。
「マズい……マズいのじゃ……」
神さまが呟く。
「どうしたんスか?」
「牛虎ガールは大気圏内では三分間しか戦闘出来んのじゃ……」
ああ、その設定ね。
「このまま、睨み合いが続けば、牛虎ガールに圧倒的に不利……」
「どうせ、必殺技持っているんでしょ? さっさと出せば良いじゃないですか」
ズビビビビ……
濁ったスパーク音を発しながら、サンダー・ドラゴンの口から雷撃が女神さま向けて走る。
女神さま、華麗にサイド・ステップを踏んで回避。
……あれ?
「あのー、神さま……」
「何じゃ、うるさいのう……」
「今、女神さま、いとも簡単にサンダー・ドラゴンの雷撃を躱したんですけど……」
「ウム。サンダー・ドラゴンの雷撃は、当たればどんな生物も感電死してしまうほど強力じゃが、なにしろ、スピードが鈍いからのう。滅多に当たらん」
「ええええ……電気なんでしょ? 一瞬じゃないんですか? ビカビカビカって……」
「それより見ろっ!」
いきなり、神さま、牛虎ガールの股間を指さす。
失礼な爺さんだな、と思いつつ、その先に目をやると、女神さまの股間が赤く点滅している。
ご丁寧に「ぴこーん。ぴこーん」って警告音を鳴らしながら。
「牛虎星人のカラーリング・タイマーが赤く点滅したら、残り時間があと僅かということじゃ。おそらくは残り一分を切っている……」
「知ってますよ。牛虎星人見るの初めてですけど、知ってます」
「しょうがない、最後の手段じゃ。アリサちゃぁ~ん、あれをやりなよぉ~おおお」
「ア……アリサ……ちゃん、て」
「ああ、いわゆる源氏名ってやつだ。彼女、昼は牛虎大学経済学部に通いつつ、夜は学費を稼ぐためにキャバクラでアルバイトしとるのじゃ。わしと彼女が知り合ったのもそこじゃ。クラブ『ズポシウム・ラヴ』じゃ」
「ああ、女神さま……結構、たくましく生きているんですね。……もっと、こう……清純派かと思っていました」
「何を青臭い事言っとる。キャバクラに努めているからと言っても、ビッチとは限らんぞ。案外、純情な女もおる。まあ、その辺りの複雑な感覚は二十歳前のドーテー君には分からんじゃろうがな」
その時、ピチピチの女子大生、兼、牛虎マンならぬ牛虎ガール、兼、クラブ「ズポシウム・ラヴ」のキャバ嬢アリサ、兼、女神さまは、両手の人差し指と中指を「ハの字」形にして、額に当てた。
出る! たぶん「ズポシウム光線」とか、いい加減な名前の光線が……
ジジーッ!
案の定、額から白く輝く光の線が放たれた!
……しかし……
怪獣に一直線に向かうと思っていた額から放たれた光線は、大きく狙いを外れて、空の彼方へ消えた。
「な、なんですか、今の……全然、見当違いじゃないですか」
「いいや、あれで良い。あれは、宇宙空間に向けて放たれた光通信光線じゃ」
「ひ……光通信光線……」
「牛虎星人どうしが連絡をとり合うときに使う、通称『牛虎・サイン』じゃ」
「ウ……ウシトラ・サイン……」
「そうじゃ。まあ、お前ら地球人がよく使うメールみたいなもんじゃな。おそらく、お姉さんのさくらちゃんを呼んだのじゃろう」
「さ、さくらちゃん……お姉さんが居たんですか」
「そうじゃ。今年の三月までアリサちゃんと同じ国立ウシトラ大学に通っていたはずじゃが、今は、卒業してマスコミ関係に就職したと聞いたな」
「へぇー」
「確か、ニッTフジBSテレビのアナウンサー部だったはずじゃ」
「そ、そうなんですか」
「彼女も、在学中は苦学生でのう。アリサちゃんと同じキャバクラで働いておったのじゃ」
「なるほど、そのさくらちゃんとかいう女神さまが助けに来てくれるんですね」
「ウム。ニッTフジBSテレビの本社は、このすぐ近くのはずじゃからのう。五分ほどで着くじゃろう」
「意味ない! 意味ない! 意味ない! 股間がピコピコしたら、一分もたないんでしょ? あんた、さっき、そう言ったよね?」
「あ……」
「あ、じゃねぇよ!」
「アリサちゃ~ん。お姉さん来ても、今からじゃ間に合わないよ~」
爺さんが叫ぶ。
「でゅわっ!」
「仕方がない! あれを使うか……と、言っておる」
アリサちゃんが、両腕を胸の前で十文字に組む……
「必殺の光線技……」
爺さんが呟いた。
両腕を胸の前で十文字に組む……と、見せかけて……
アリサちゃんは、両手を股間に当てて「V」の字を作った。
「シオフキウム・光線!」
爺さんが叫ぶ。
シャーーーッ!
股間から、水っぽい光線が放たれて、サンダー・ドラゴンの顔を濡らす。
「ギャォォォォン!」
ドッカ~ン!
サンダー・ドラゴンは、いたたまれずに爆発した。