8話目 突発発生した迷宮災害対策本部の創設、と対策内容について考察するくだり
猫耳少女が目覚める前に、色々と展開を考察するくだり
さて、何が発生しているのかは、判明。迷宮災害、突発的に迷宮が発生して、山間の村が一つ飲み込まれたとのこと。原因は過去の秘密結社時代の罠、それの発動。これは予想、偶発的なもので村の住人の意図した所では無い可能性が大。
こちらから起こすリアクションは、まず考えられるのは、放置。これは無い。死んだふりをして、世間の目をごまかしている、私の目覚めたダンジョンの側に、生きているダンジョンしかも、こちらのダンジョンと関わりのある、それ、が活動しているのはまずい。何かの拍子にこちらの死んだふりが見破られる可能性がある。
いまさら、ダンジョン経営なんてめんどくさいことをしたくもないし、こちらは、まだのんびりとこの世界の情報を集めたい段階なのだから……将来的にもダンジョン経営はないかな?動因が薄い。見返りがあまり魅力的ではない。
であるなら、なんらかの対処、迷宮の消滅などのような事、が必要。ではどのような結果に持っていくか?シンプルなのは、無かったことにすること。すみやかに、迷宮生物を退治して、もとの状態にもどす、それにあたって、私の生まれた迷宮の情報を秘匿する。場所については、すでに幾人かにはバレている、けれど、死んだふりをしていることはバレていないはず。情報源の削除を視野に入れる。物理的な消去は、歪みを残しそう。暗示と恩義による誘導?とりあえず猫耳少女のスノウに対しては、生かして返すかどうかも含めて、再検討。あちらの世界の倫理に照らし合わせると色々アウトか?まあ、あちらの世界でもこと全体主義的な流れだと個人自由なぞ塵芥のごとくであったか?
内省するに、物理的な削除はしたくないと結論。子供は大事な資源だし。どうせなら、色々実験対象にしたいから、緩やかな暗示一択と、誤魔化しの方向で。恩を売って、思考を誘導しよう。とりあえず、猫耳少女の両親を助ける向きに進ませよう、そして、村の住民もなるべく生かす段取りで、迷宮を消去させよう。
それと、同時にこの迷宮の存在をごまかさないと、幸い、エントランスを含め一階のみしか目にさせてないから、規模は不明のはず。このまま、一階のみの祭壇?神殿っぽいものがあるのみの、死んだ迷宮とかという認識で押して、今は可動していないという体を装う方向でいく。メンテナンスデバイスは最小しか目にさせていないし、迷宮特有の”怪物”、そこに作られた生態系も凍結しているし。この点は問題ないか?
ワタシに関しては、迷宮の管理者というよりは、住人?という点を強調しておこう。できるだけ村人には内緒にしてもらうようにする。この卵型の容姿が世間一般でないので、驚かせたくないので、秘密にしてほしい……という線で誘導する。この辺りは村を迷宮から解放するあたりで、何か仕掛けをする必要ありなのだけど、まあ、方法は色々考えられるので、状況次第で選択と。
さて、では発生した迷宮を消滅させるような方向で行くとして、どのようにするべきか?
迷宮についての対処法を考察するくだり
まずは真っ当に正面から、迷宮を攻略する方法。入り口から入って、なみいる怪物やら、罠やらをかいくぐって、迷宮生物の核を攻撃して、消滅させる。もしくは、制御して、取り込む。核に近接すれば、迷宮の所有権を得るくらいの方法はある。いくらかの機材が必要だが。全くの自然発生な迷宮であるなら、かなり時間がかかるが、この発生した迷宮は、私のいる迷宮の子供とか孫とか、直系の要素があるものであるから、アルゴリズムがすでにおおよそ解明されているので、命令権を割り込ませるのは簡単だと予想……。直接接触して回線を開かないとならないのが、もどかしい、けれど、迷宮を制御する技術というのが、そもそも世間一般には秘匿されているオーバーテクノロジーである点を忘れないように。いろいろ規格外であるのだよな、この施設。
しかし、正直に、正面から行くのは問題あり。そもそも中に閉じ込めた対象の殲滅もしくは足止めが主体のダンジョンであるからして、入り口近くの方が難度が高い、侵入に一苦労。そもそも周囲の仲間が救援に向かえないようにしている可能性が高いので、侵入すら難しいか?
迷宮内の生態系を形作るための生物を搬入するための一方通行の入り口があるが、侵入者用の対策は立ててあるだろう。門番がいる。それが多分その迷宮最強クラス。それの目をかいくぐって、こっそりと侵入は可能か?不可能と判断。そもそも迷宮が本気になれば、その内部で見えない所は無いのだから、誘い込む必要がない迷宮は厄介。本来の迷宮生物なら、その難易度を加減して、知的生物を深く何度も誘い込んで補食するのだけども、この罠として作られた迷宮はその点歪んでいるから。最初から最後まで力押しでいけるほど、ワタシとその装備は天下無双ではない。おそらく現状の凍結状態から解除した装備群でやれるのは、最初の門番相手がせいぜい。戦力が足りない。スニークミッションも不可能。であるから、そもそも真っ正直な攻略はあり得ない。迷彩装備を充実させればなんとかいけるか?対比費用効果が悪そう。
では、まっとうには攻略しない。基本有利な点は、攻略対象の迷宮生物が発生したばかりという点。大きさもそれほどではないということは、核の位置もそれほど深い所では無い。加えて、基本的な設計図も所持している。なので、まっとうでは無い攻略をする。
基本は囮と本命。ワタシが迷宮の処理能力の大半を奪うように飽和攻撃をしかけて、そのウラで本命を動かす。
迷宮の核の場所はおおよそ判明しているので、基本なんとかなるか。問題は、私の生まれた迷宮情報の秘匿。……さて、上手くやろう。
卵さんが猫耳少女に対して色々ごまかすための会話
「現在の状況を説明しましょう」迷宮のメンテナンスデバイスを周囲の山々立体マップに変形させつつ、ワタシは少女に話始める。少女は全面的に信頼しているような視線を向けている。暗示は正常に効いているよう。
「まず、スノウさんの村がここ、現状この村の居住区を覆うように、円筒状の迷宮が発生」くるりと指示棒を向けると、村のあった場所に円筒形の物が形作られる。
「その内部がどのようになっているのか、どうしてこのような物が発生したのかの原因は判明していませんが、おそらく迷宮の突発的な発生、迷宮災害の一種であるのでは無いか?という推測ができます」
「迷宮災害?」少女が尋ねます。
「そう迷宮災害、その名のとおり、前兆が感じられないもしくは、かなり少ない状態でいきなり周囲に迷宮が発現する災害のことや、発生は分かっていても、何らかの原因で止められない現象のことを言います」
「内部がどうなっているのかは不明ですし、取り込まれた貴女の村の人々が無事であるかは、確約できません、迷宮には敵性生物が多く住むからです、ただし、発生から間が無いのでまだ無事である可能性は高いです、なぜならば、発生したての迷宮にはまだあまり人の生命を脅かすほどの敵性生物の生態系が構築されていないからです」
「?」
「簡単に言うと、出来上がったばかりなので、怪物があまり多くなく、いても弱いのです、おそらくですが、村人達は無事ですよ……最初の天変地異的な地形変化に巻き込まれてけがくらいはしているかもしれませんが」
目に見えて、安心する少女です。
「ですが、このまま時間が過ぎれば、迷宮内の生態系が完成に向かっていき、迷宮そのものの規模も大きくなるでしょうから、危険度が増します。強い怪物が生まれたり、住み着いたりするからです、なので、一刻も早く対処する必要があります……ああ、そうそう最初に言っておくべきでしたね、発生した迷宮はワタシが何とかするつもりです。その過程で貴女の村の住人も助ける方向で検討していますよ」
「!」猫耳少女は明るい表情になります。
「幸い、死んでいるこの迷宮を利用した倉庫に、昔使用していた魔法の武器やら道具やらがいくらか眠っているので、在庫を一斉に放出すれば、なんとかなる予定です。発生した迷宮の規模が小さいので、一両日中に対処すれば、ギリギリ間に合うでしょう」
「ありがとうございます!」
「お礼の言葉は無事に村人が、ご両親が、解放されてから受け取りましょう」
「おれいとかは、きっと、皆が助かれば色々することができると思う……」すこし心配そうに言うスノウさんですが。
「その点は心配ありません。ワタシは貴女の喜ぶ笑顔がみたいのです」キラリと大きな口の大きな白い歯を光らせてみる。
「!?」猫耳少女に頬が赤く染まります。「ええと、お礼にはならいかもしれませんが、私でよければもらって下さい」ちょっと恥ずかしそうに、でもキラキラした目でワタシを見つめます。
「過分な報酬でございますね、お嬢様」優雅に卵形の姿が一礼します。
「そんな、お嬢様なんて……」てれてれと恥ずかしがる少女さんです。よし、モルモットゲットですなんて気持ちはおくびにも出しません。いい感じに好感度を上げられたようです。薬も良い効果を出しているよう。
「さて、具体的な話ですが、これから迷宮へと向かいます。装備は貴女が休んでいる間に用意しました。距離的には近いので、あまりかからずに……一日の10分の一くらいの時間で迷宮までたどり着けるでしょうから、そのままひと当てします」
「そんなに早く移動できるのですか!」
「色々使いますので、で、迷宮に対してワタシが攻撃をしかけます。その過程で迷宮の壁を崩壊させますので、スノウさん、貴女はその合間から、村人達に呼びかけて、外へ誘導して欲しいのです。その際、避難路の安全はワタシが確保します」
「私がですか?」
「はい、何しろ、ワタシの容姿は独特ですので、村人さん達にいきなり信用される自信がないのです」
「そんな、とても素晴らしく格好いいですよ卵さんは!」いい感じに盲目状態ですね、彼女。少しほくそ笑みながら、ワタシは話を続けます。
「まあ、それはそれとして、やはり村の仲間であるところのスノウさんが声をかけたほうが、安心すると思うのですよ、避難はスムーズに行わなければいけませんし。で、ある程度、人が中央より避難が完了したら、奥の手を使います」
「奥の手?」
「雀さん達です」ちゅん、という鳴き声と共に、頭に止まっていた雀が鳴き声を上げます。
「???」可愛らしい顔に疑問の表情を浮かべる猫耳少女さんでした。
雀さん達の隠された実力の一端を披露するくだり
「この雀さんたちは、魔法の道具です」ちゅんちゅんと卵形のワタシにまとわりつく雀さんを指し示しながら言います。
「雀さんたちは、周囲の情報をワタシに伝えたり、簡単な撃退用の魔法を使用したりできるのですが、集団でとても大きな魔法を使うとこができます、魔法についてはご存知ですよね?」一応確認の為に尋ねます。
「はい、村にも魔法使いのお婆さんがいますし。簡単なものなら、お父さんもお母さんも使えます」
なるほど、魔法技術のレベルは維持されているよう。一つまた確認できました。
「そうですか、では、この雀さん達は集団で一つの大魔法を使うことができます。その威力は強固な迷宮の壁を崩すほどです。ただし、一度使用すると、つきっきりでメンテナンスをして数日、自己回復に任せると数週間ほど、再び同じ魔法を使うのに準備時間が必要になります、なので、確実に起動させる為に、ワタシが派手に迷宮の怪物の目を惹きます、タイミングを合わせて一撃を放ちさせます、その際大きな音が出ますので注意してください」具体的には、耳をふさいで口を開けて、物陰に隠れていてくださいと、指示します。
「その轟音を合図に村人達を誘導し始めてください、お願いしますね?」
少女は真剣に頷いています。
上手く色々ごまかせましたかね?そうそう、暖かい特別製のミルクを再び勧めておきましょう。念には念を入れておかないといけません。