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5話目 来訪者の診察と迷宮の手足の活躍について

迷宮の維持管理における立役者もしくは縁の下の力持ちについてのくだり


 ダンジョンの活動レベルを1段階上の状態へと上げる。メンテナンスデバイスの顕現、および制限の解除。迷宮は生き物になぞらえる、というか、実質鉱物生命体由来の現象であることは以前考察している。その巨大な体を維持管理するための機構は、もともと備わっている。迷宮の管理においてはその仕組みもまた、支配下におくことが可能で、そして、本来欠損箇所の修復やら、ゴミ掃除やら、外敵(内敵?)の排除やらにしか使えないそれを、もう少し本来の用途とは離れた運用をすることが可能となっている。つまるところ、迷宮に迷い込み、行き倒れた子供を保護するとかという使いかたができるわけ。

 モニタに迷宮の壁からニュルりとしみでてくる姿を確認する。それは、床に降り立つと、緑色の液体に近いからだを硬質化させて、ゼリーにもにた質感を出し、涙滴型に固まる。半透明で弾力性がありそうな体は、およそ縦横1.5mほどの大きさ。

 その体は、微細な独立した粒子の集合体で、結合の強さを変化させることによって、自由自在に変形し、その硬度を多種多様に変化させることができ、その体の変化によって、縦横無尽に迷宮内を移動し、迷宮の維持管理をすることのできるデバイス。大きさも姿も粒子の量や結合方法によって、変幻自在。その総質量は迷宮に対しておよそ1%ほどで、もちろん分散しての活動が可能、一過所に集めることもできるが、迷宮の一層が埋まるほどの質量があるので通常は迷宮のバックヤードに控えていたり、壁の隙間、デバイスの移動経路として使用する用途がもともとあるそれを、人体を循環する血液のごとく移動している。

 そのデバイスの維持や操作には周囲に迷宮という環境が必要なので、当然迷宮の外には出られないし、ここに思考能力はないので、あらかじめプログラムされた行いを迷宮がわから指示してやらなければならないといったような制限はあるものの、かなり便利な、迷宮の”手足”。

 あちらの世界でいうところのナノマシンの集合体といったイメージ。これの動力もまた魔力とか魔法によるもの……そういう生物を開発したほうがはやいんじゃなかいか?と思うくらいこれもまたエネルギーの無駄使いに見える。いや、迷宮がもともとそう言う生き物なのか?

 それは、ふよんふよんと体を動かして、迷宮のエントランスへと倒れ伏す小柄な人物へと近づき、うにょんと体を変形させて、器用にその人物を緑色の体の上へと乗せる。そのさい、運ぶものが落ちないようにかるく体を凹ませて、内側へくるむようにしておく。

 そして、その緑色のゼリー状の体の下部を蠕動させて、行き倒れた人を迷宮の奥へと、運んでいった。


医務室にて色々検査することについて(医者のまねごと)


 迷宮の一層、その安全区画に過去の秘密結社時代の医務室、診察室、が存在する。そこへと小柄な遭難者を運び入れる。ざっくり治療施設を起動。過去には戦闘員の維持管理、健康管理に使用していた施設だが、簡単な手術やメンテナンスも可能な場所。白く清潔なシーツやら、ベッドやらを、運び込まれる前にチェック……経年劣化で備え付けのベッドがわりの迷宮の岩棚(?)くらいしかまともではなかったので、同時に魔法の道具で使えそうなものをその部屋へと移動させておく。メンテナンスデバイスである緑色のゼリーを使って。

 緑色のゼリーはその体の一部を触手のようなものに変化させて、ダンジョンの床が盛り上がってその上が平になった箇所、治療用のベッドの上へと遭難者を乗せる。そして、器用にその着ているものを脱がしていく。

 私は、メインのカメラをそのゼリーに作成して診断……めいたものを開始する。呼吸音は多少弱まっているものの正常、意識は混濁しているよう。唇が乾いているので脱水症状?がみうけられるのか?

 致命的なウイルスの存在を考慮すると、私自身はそこへ行くことはできないので、デバイス越しに色々調べてみることにする。触診、聴診が基本になるが、基本的な診察は頭の中に焼き付けられているのでだいたいは分析可能。

 加えて、診察室へ運び入れた魔法の道具によって、詳しい調査も可能になっている。

 

魔法の道具についての考察(診察と平行しながら)


 魔法の道具というのは、魔法の力を発動させることのできる道具のこと。そのままの意味。呪文を唱えて、魔法の効果を対象に及ぼす、それと同じことができる道具のこと。作成は、魔法を使用できて、自身の魔法使用領域、焼き付けておける容量を拡大する訓練が可能な技術をもつ者なら、誰でも可能。

 自身の魔法使用領域を広げる感覚で、特定の物質に魔法を書き込んでいき同時に魔法という現象を引き起こす粒子を注ぎ込んでいけば作成できる。当然、使い捨てにするなら短い時間で作成可能であるし、永続的な効果を期待するならば、その製作時間は延びる。及ぼす効果にもよるけども、0レベルの魔法で永続的な効果をもつ、魔法の道具の製作時間はおよそ12時間ほど、時間をおいて、分割して作業が可能。レベルが上がると、それにおよそ比例して製作時間が伸びる。

 自身の領域を広げる代わりに魔法の道具を作成するわけなので、言い換えれば魔法使いとしての成長を道具の作成に置き換えるということになる。成長と作成のどちらに時間を掛けるかは、それぞれの魔法使いのスタイルによるものの、魔法の道具を作ったほうが、時間を効率に使用できる面もあるので、修行一筋で生きる魔法使いのほうが効率よくレベルを上げることができるとは、一概には言えない。もっとも、経済的に余裕があるならば、修行に明け暮れたほうが、効率よくレベルを上げられるのは代わりはないので、環境が魔法使いを作るという面ももちろんある。考察がいつもの通り明後日の方向へとずれた。モルモットへと視線を戻そう。モルモット?こちらの世界にも似たような表現があるよう。ああ、違う、患者だった。致命的に後戻りができないようなことはできない対象。意識しておかないと。


魔法の道具その効果と成果

 

 診察室へと持ち込んだ魔法の道具は、握りこぶしほどの水晶球で、病気のもととなるようなものを対象が保持しているかどうかを判定する道具。あらゆる粒子に干渉できる、魔法という技術は、つまるところ、対象を正確に把握することができるということ。しかし、そこにそれがあるという前提で魔法を構築しなければならないので、概念が無い存在は感知できない。この世界では、病気の元になる目にみえない小さななにか、と言う概念があったのので、それを探知するための魔法があった、ということは幸い。

 水晶球へ写される、記号によると、伝染性のウイルスなど、人体を害するものはついていないよう。もしくは微細であるので問題が無い、と表示される。緑色のゼリー状のメンテナンスデバイスが体の一部を腕のように伸ばして、水晶を患者へと水晶球を掲げて、診察する。

 同時に外傷の有無を確認する。


診察の続き、怪我の有無と、身体の調査


 少し土や埃で汚れているものの、結構丈夫な衣服を脱がせる。フード付きのマント、長袖長ズボン、下着。繊維は荒い、植物由来のものらしい。魔法の効果はなにもついていない。

 小柄な人の幼生体。あちらの世界換算だと、10歳以下7歳以上。雌雄は……雌?女の子らしい。陰部や、胴体の重要機関に白い体毛が生えている。ちょうど下着をきているように。頭部の上部へ三角形の耳がついておりそれも白い毛に覆われている、髪の色は白に青色のメッシュ。臀部には40cmほどの長さの白い尾が生えている。

 手には肉球はなく、爪などの形も猫要素は無い。小さな手。骨格も獣由来の四つ足歩行重視ではなく、二足歩行重視。ただ、少々腕が長めで体がやわらかそうなので、四つ足移動も可能?これは活動状態の観察が必要か?

 典型的な、猫要素を持つ人で、有尾タイプ、体毛範囲10%、頭頂部耳。顔面の体毛は薄い。小さな牙が少々みえる。頬はこけているものの、目鼻立ちははっきりとしている。目は触手で開かせ、調査、色は琥珀、縦に伸びた瞳孔は虚ろ。光には反応している。

 このように、あちらの世界で言う所の猫や犬などのほ乳類に及ばず、鷹や白鳥などの鳥類、鰐や蛇などの爬虫類に、何故か外骨格であるはずの昆虫の要素が、人体に混ざることは、こちらの世界では普通のこと、と脳に焼き付いている知識にはある。もっともその総人口におけるその割合はマジョリティと言うほどではないが、迫害されるほどマイノリティでもない。

 その身体における他の生物の特徴の割合によって、カテゴライズされることもある程度の、存在頻度。体表を覆う体毛の範囲やら、骨格のつき方、蹄などの有無や、耳の位置など、個体によってさまざまな容姿になっている。ほとんど獣と変わらない容姿の人もいるものの、共通して、前肢が器用に道具などを使用できる形状にはなっているし、四肢しかなければ、二足歩行が可能。六肢以上あり、四足歩行+前肢での作業という形状の人もいるのでこう言った表現になる。

 その容姿は、およそ両親からの因子受け継ぐ。隔世遺伝はあり、それも通常は受け入れられている。よほど体格に差がないかぎり、交配は可能。

 宗教的にも問題なく、むしろその容姿は神からの贈り物、ギフトとして祝福されているものも多い。例外は有り。

 進化論とか、遺伝子とかどうなっているのか?とかは思うし、ここにも何者かの意図が感じられる。色々調べてみる必要がありそう。丁度良いサンプルも手に入れたし。実験施設もここには不自然なほど整っている。……人工生命を生み出そうとしている施設なのだから、自然なのか。

 ともあれ、内臓とかどうなっているのだろう?興味深い。

 少々栄養が足りていないようで、痩せている。

 外傷無し。

 これは、飢えと、疲労しているだけか?


応急処置+栄養の注入(官憲を呼ばれるようなことはしていないはず)


 室内はそれほど寒くはないものの、患者の体温の低下が見られるので、メンテナンスデバイスのゼリー状の体で、その肢体を包む。同時にデバイスの一部を触手に替えて、身体の洗浄……体表上のゴミなどを取り込み除去する……を開始。

 そして、メンテナンスデバイスのゼリー、その一部を細長く伸ばす。太さ数ミクロンの糸を作成。経口から、胃までその糸を伸ばす。そして、少し時間をかけて、質量を胃に送り込み、500ミリリットルほどの栄養を含んだ水分を作成して、分離、患者に吸収させる。

 メンテナンスデバイスはその構成物質の性質上、非常時の食料にもなり得る。特に多くの水を含ませることができるので、重宝。

 しばらくして、経過を観察。体温の確保と、水分と栄養の補給によって、危機的な状況は脱したよう。呼吸音が安定して、状態が睡眠へと移ったのを確認する。

 ゼリー状のデバイスは引き続き少女を包んでおく。一定の温度に調節しつつ、定期的に栄養素を含んだ水分を与えつつ。デバイスの体積はまだ充分、仮に足りなくなっても迷宮から新たに補給してあげれば良いので問題無し。

 と、小さな口が何かもの欲しそうに開く。デバイスの触手を伸ばして口元にあてる、おしゃぶりのように加えているので、経口で少しずつ水分を補給さてていく。安心しているような無垢な笑みを浮かべる猫耳幼女……。


 さて、粘体のクリーチャーに包まれて、触手を口へと差し込まれて、幸せそうな表情をしている猫耳幼女……。あちらの世界の一部のその手文化が好きな対象によると、これはかなりの絵図なのではないかな?あちらの世界、極東の島国に生息するという、紳士という存在を脳裏にちらりと浮かべる。

 他意は無いが、そういえば、診察と同時に記録映像装置は回しっぱなしだったな、とも思う。

 ちょっと視線が泳いだのは、何かに動揺したせいか?なるほど、あちらの世界の記憶があるというのはこういった現象、精神の揺らぎを呼び起こすのか……なかなかに興味深い。

 そういえば、この体、性的な衝動はどうなっているのだろうか?優先度は低いが、要確認とメモ。


 ……さて、それでは、自然に彼女が目覚めるのを待ちながら、もう少し詳しく身体の調査をしておこう。そして、その後、最初の接触にあたって有益であろう魔法の準備を初めることにする。



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