3話目 迷宮と研究施設についての確認と再起動
食事の後片付けをする
さて、特に問題なく飲食できることが確認。味覚もおそらくは正常。食器はやけに設備の整ったキッチンの流しで洗う。当然のように水の出てくる設備あり。水源は地下水、動力は魔法でつくられてた道具。水質も問題なさそう。メモ、消化に問題がなければ、今度はもう少し凝った料理に挑戦する。タンパク質、ビタミンを摂取する方向で。
迷宮の管理室へと移動し、モニタを確認
この研究室は、人の住む生活圏からはおよそ十数キロ離れた山の中、天然の洞窟を加工して建設された、地下迷宮の最下層にある。迷宮の大きさはおよそ1km四方の十層。各階の平均した高さ、がおよそ10m程、これには階層間のスペースも含まれるので研究室は地下およそ100mほどの所にあることになる。実際は迷宮の構造上の関係でもう少し深い。ただし、標高1000mほどの山の中腹にあるので海抜としては0より上。
迷宮というのは、とある秘密結社の基地として作成されている。昔、この施設を現役で使用していた魔法使いの時代のさらに数世代前、世界制服をめざす結社のアジトとして機能していたらしい。荒唐無稽な話だが、まあ、あちらの世界でいうところのシャイアンの穴蔵のようなものか?
秘密結社自体は、移転したのか、滅ぼされたのかは不明だが、この基地を後にしている。その後くだんの魔法使いが研究施設として10層目を改築して使用している。迷宮はもともと9層に司令部が存在しており、10層目は偽装された隠し階層としてつくられていたので、それを利用。そもそもは幹部クラスのプライベートスペースだったようだ。
迷宮の入り口は封じられている、物理的に扉で。魔法による鍵がかけられ、解放されたら、管理室に知らせが走ることになっている。これも魔法の警戒装置。便利過ぎだな魔法。あちらの世界の電子機器にすっぽり置き換わっているイメージ。ただし、原理を知っているのはほんの一握りの存在という点が違うか。いや、あちらの世界でも機器の構造を理解していた人は少なかったな。
しかしさすがに長く休眠状態にあったようで、施設そのものが動いていない。モニタが暗い。
監視カメラの再起動
監視カメラなどを再起動する。それらの手順は記憶にもともと焼き付けられている。迷宮の管理者としての役割をこの体を作り上げた魔法使いは、求めていたのかもしれない。金属とも石材ともつかないパネルに手を置く。起動の為に、軽く魔法を発動させるための粒子を放出する。この粒子、個人によって波長が違うので、識別の為の、ギミックに使用できるらしい。低音が響き、起動音。パネルに幾何学的な文様が浮かぶ。適切な箇所にタッチ、休眠状態の迷宮を少しずつ再起動させていく。まずは”目”。モニタ、おおきめの机、ガラスのような材質のその天板をが光る。立体的な映像が机に浮かぶ、光そのものに干渉した三次元映像投射装置。緑色のワイヤーフレームなのは、制作者の趣味か、はたまた装置の限界か?
迷宮の全容が表示される。最後に封鎖されてから、侵入者は無し。残念ながら、施設の時計が狂っているよう、0を示す記号が並んで点滅している。経過時間が不明。ちなみにこちらの世界も10進法でアラビア数字に似た表示を仕様している。0の概念も存在する。
迷宮外に設置されていたカメラ……これも魔法の道具……を呼び出すが、こちらはつながらない。パスが切れているのか、カメラ自体に問題があるのかは、不明。
各層に偽装されて設置されている警戒装置やら、防衛装置やらは、ほとんど無事に使用可能。僅かに不具合が見られる箇所も、再起動と同時に修復が開始されている。ただし、基本”死んだふり”でやりすごしている迷宮であるので、見た目は只の通路や部屋、明かりすらともっていない。カメラの映像は抵光量対応なので問題ない。
迷宮に関する知識の確認と考察
そもそも、この秘密結社の地下基地迷宮の存在自体、おとぎ話の部類であったか?ここにこのような迷宮があると知る人は少ないはず。少なくとも魔法使いからの知識では皆無。なので、侵入者0も不思議ではない。この世界、迷宮は普通に存在する。その分類はさまざま。魔法というファンタジックなギミックがまかり通っている世界なので、”自然発生する迷宮”という非常識な存在が許容されている。
仕組み。前提として、この世界のほぼ全ての存在は魔法を発動させる粒子を発生させる器官をその身に宿している。そして、生物としてのカテゴリーの中に迷宮という存在がある。鉱物ベースの生物ということ。その迷宮という生物は、周囲の状況に適応しつつ、ある程度閉鎖された施設、建築物に似た環境を構築する。そして、希少な金属や、迷宮の魔法によって作成された各種便利アイテム、食料などを含む、をその奧に設置する。それを目当てに入り込んだ生物を、これまた魔法によって作成されたり、呼び込んだりした存在を使用して、補食する。ちなみに、主にとりこんでいる栄養は、魔法を発生する器官に存在する特殊なタンパクらしい。
食虫植物の巨大版+鉱物由来の生命体。らしいのだが、巨大なものでは数キロ立方にわたる生命がその程度の栄養で自身を維持できるのか?という疑問あり。解としては、生物としての要素は広大な迷宮の内一ケタ%くらいで、あとは作成した構造体というものがあるが、それでも、補食する量は、迷宮を作成するエネルギーに見合わないような気がする。これもいびつな生命体で、何者かの意図が感じられる、メモ。……そもそも魔法を発動するための粒子を発生する器官に不自然なものを感じるので、いまさらか?
その生命体である迷宮を維持管理するための技術もあり、この秘密結社のアジトはそれを高レベルの水準で使用している。当然その技術は秘匿知識であり、限られた存在した操れないし、その発想すら一般の人々には無い。迷宮とはそういう生き物のような現象なんだ、と理解するのみ。
世界の不自然さを考察、文献を調査
そろそろ、この魔法という不自然きわまりない現象の調査を、はじめて見るべき。魔法使いの私室へともどり、関連する文献を読みあさってみる。
そもそも、魔法という技術、現象がなぜ発生するのか、という疑問をもつ研究者は、過去にも数多く存在し、研究も行われていた。が、歴史上では宗教がからんできて、何度か弾圧があり途中なんどか頓挫して、空隙があるらしい。それでも近年は神の存在が否定とまでは行かないが、疑問視されてきているので、宗教団体の力も比例して弱まっているよう、もっとも古い知識なので現在どうなっているのかは不明。
この施設の魔法使いもそのあたりの疑問はひと通り抱いていて、研究もされている。メモや研究用のレポートただし、どこかへ発表するのではないつもりなので、覚え書きに近いノートのようなものも、見つかる。
結論から先に言う。不明。現象の発生はそれこそ有史以前、念じて吠えると、火がついたとかいった感じで魔法的な何かの現象は存在が確認されていた。しかし、その原理ということになると、あまり研究が進んでいるとは言えない。
生命体の器官に、魔法を発動させる粒子を発生させるものがあること、までは、過去の研究者が突き止めている。が、その粒子がなぜ発生するのかとか、その特異な振る舞いの原理などは、センサの精度が低いこともあり、観測ができなく、研究が進んでいない。観測することによる影響で、振る舞いを変える粒子を正確に観測しようという問題もある。
また、生命体にそのような器官が存在していることが不自然だという発想自体、少ないので、この器官がどうやって、進化してきたのか?という研究が少ない。……進化論のようなものは、こちらの世界にもあるので、それに照らし合わせた考察は見受けられるが、すでにあるものの存在を疑うような研究は少ないよう。0ではない。
これは、他のアプローチも試してみる必要があるか?粒子を発生させるプロセスを逆転させて、検証していくとか?
それにしても、この世界、魔法の件といい、迷宮の件といい、何かおおきな陰謀を感じる。こう、なにか、得体のしらない存在による、世界への介入と、いったレベル。大掛かりな実験?壮大な暇つぶし?なんにせよ、超越者の存在を頭の片隅に置いて、行動したほうが……おや?誰か来たようだ。