16話目 即席栽培迷宮に飲み込まれた山村と猫耳少女のその後が語られるくだり
いかにして辺境の山村に、新しい宗教が立ち起こったのかを語るくだり
膝を付いて、左右の手の指を絡めてその手を額につけて祈るようなというか、実際祈っている格好をしている人達。礼拝対象は異形の生物に乗っている卵型の怪人。そう、偶像礼拝、それは、やはりわかりやすいし、そもそも、対象がしっかりと肉をもっているのであるから、偶像になっていてもなんら不自然なことは無い。その騎乗する異形の生物は、6本脚の馬のようなもの。ただし馬の首はなく、首のあたりに豪華な椅子がしつらえてあって、そこにまるで首の代わりのように、卵が乗っているといったもの。6本脚の首無し馬は、その前脚が高々と上げられて、斜め上へと駆け上がろうとしているような様子で固定されている。その首の辺りに乗る卵の怪人は、金属製の甲冑を身につけて、片手に幅広の両刃の剣を振り上げて構えている。その像の材質はブロンズの様な質感を持っている。今にも動き出しそうな躍動感にあふれている。サイズは高さ3m、横幅が2m半四方ほど。原寸大。
当然動く。というよりも、動くデバイスを転用して、魔法を併用して固めたもの。状態を維持する魔法がかけられている、かけたのは私。その存在に対して、一心不乱に祈っている村人達。即席迷宮に飲み込まれて、解放されて、一昼夜、いつの間にか用意されていた村はずれの異形の彫像へ、ほどんど何も違和感なく祈りを捧げる村人達。彼らの認識では、村を救ってくれた大いなる者の御使いといった存在になるよう。深淵に、遠く宇宙のどこかの星に眠る、大いなるものをそのまま彫像にすると、見るたびに正気を失いそうになる上に、立体化が不可能な造型であるので、像は活躍した卵の騎士の形をしている、そして、それを通して感じるのは、遠き宇宙の絶対の真理を体現したおぞましく冒涜的な、そして圧倒的なパワーを持つ存在。実のところその神と言って過言ではない存在は、即席栽培迷宮の最後の催眠誘導のガスが生み出した幻であるのだけど、村人の中では強固な真実、事実となって存在しているよう。今後の展開に便利なのでそのまま思考を誘導する。
迷宮に飲み込まれて、その一部として吸収されてしまうという、直接的に生命の危機といったものに追い込まれた人が、その危機より、圧倒的な力でもってして救い出されたとき、その圧倒的な何者かを神として、恐れ敬うようになるのはまあ不自然ではないと思う、私はそれをちょっと後押しして、加速させて、人の心の坂道をかけ下ろさせただけ。もしくは、奈落の底へ、崖の上の端からそっと押し出しただけ。もう戻れない、戻さない、戻す必要は今のところない。制御可能な段階の内に、どんどん押し進めて行く。
祭祀を取りまとめているのは村の巫女的な存在、適度に整った容姿で、年若い女性体。それと、やや壮年の男性、こちらの男性は物静かなタイプをチョイス。彼らに演出を直接叩き込んでで、耳元で囁いたり、飲食物に細工したり、直接迷宮の一部を肉体に植え付けて四六時中頭の中で思考を導いたりして、一昼夜で”悟”らせる。悟ったと思わせる。ざらーと村人のリストを見たなかで、むいていそうな人材をピックアップしてみた。説法はなかなかどうに入っている。教育者的な立ち位置であった男性は話し方が上手い。巫女的な存在は、普段おっとりしていて、夢見がちであったので、神がかった表情や、言動が状況にあっているよう。衣装は、超特急で作成してある。というか、既にそこは迷宮の一部であるから、迷宮のメンテナンス用デバイスが変型して色をつけてある、不思議な繊維で作られた服を身にまとっている。巫女が持つシンボルは虹色に渦を巻く光が表面を走る、赤子の頭ほどもある卵型のオブジェ。演出用に倉庫の奧から引っ張り出した卵型のオーブ、本来の用途はインテリア、あちらの世界で言う現代芸術より、このオブジェクトをじっと覗いていると、思考があやふやになるという、リラックスグッツ、というふれこみだったけど、運用テスト中にこれを見つめていたテスターが数日現実に帰ってこなかったのでお蔵入りしたという、伝説をもつインテリア、すでに何か呪われたアイテム的な存在、こんな物しかないのかここの倉庫。というかそれ既にインテリアのカテゴリではない。神主的立ち位置の男性が持つのは、大人が一抱えする必要があるほどの大きさの本。これは、魔術書。神から使わされた魔法が書かれているという設定。実用書で、生活に便利な魔法が一式、書かれている。段階でいうと、0レベルの魔法が2ケタほどと、1レベルの魔法が数個、そのうちいくつかは、迷宮に対しての制御魔法が入っているので、色々干渉できる迷宮内ではかなり便利な魔法となっている。これは、神主さんが魔法の才能を充分もっているので、むしろそういう人を選んでいる、ので、権威づけに有効に使用してもらう予定。魔法の力に溺れて、暴走する神主とかその一族とかのお話は、実験してみる必要があれば、行っても良い。が、当面は、確固とした宗教としての基盤を作成する為に使用させてみる。
基本的に秘せられた宗教で行く予定。周囲の村、と行っても徒歩で移動に3日ほどかかる、に布教する予定は無い。村人達には、秘密にすることでご利益が守られるという認識を植え付けておく。基本荒御霊……奉っていないと祟る面もありそうな所を強調。贄は敵対生物の頭とか骨髄……、魔法の粒子を発生させる器官がある部位と、その粒子を制御する部分、を像の前にある台座に収めるようになっている。それらは、迷宮のエネルギー源となる。必然、人を補食する敵性生物を狩る腕前を上げなければならなくなるので、狩りや罠の設置が尊ばれるようになる。あとは神捧げるといった料理の発達も促してみる。大いなるもののお告げとして、発酵食品のノウハウとかも伝えてみる、上手く行けば、恒久的にこちらの食料事情が解決するかもしれない。倉庫に眠っている食材がいかに膨大であろうとも有限ではあるから。
肉体的な基本能力の底上げは、訓練で行う。この教官めいた存在は、私が生まれた迷宮に助けを呼びにきた猫耳少女のスノウさんの親達に任せてみる。もともと、肉体的に強化されていた血を引く一族で、こちらの迷宮を根城にしていた、秘密結社由来の改造人間の子孫といった立ち位置である彼らに対して、彼らと、眠っていた迷宮との情報リンクを解放させて、効果的な訓練方法をインストールすることが容易であるよう。村人を訓練して、素人から、いっぱしの狩人へとランクアップさせる教官として生まれ変わらせる。もともと防人というか、村の用心棒的な立ち位置であったし、いわゆる山の人であった、採取狩猟系の住人であったので、違和感なく移行される。
これで、巫女=シンボル、神官=リーダ、武官=実行隊長、ができる。村長は事務方であれば良いであろうし、もともとの立ち位置を変更しない。ただ、崇める対象が別に出来ただけで、村長とその取り巻きも違和感なく取り込む。自尊心とかは、最初の大いなるもの降臨で根こそぎ破壊されている、あのお方に対してはわれわれなど塵芥に等しいとかいう認識をすり込ませておくので、派閥争いは低くなる予定……経年劣化でどうなるかが注目される。塵芥にも階級ができるのは自然な成り行きであるので、どろどろとした権力争いとか、物語られる可能性はあり。この辺り、成り行きに任せてみるのも面白いか?メモ。
当面は、私の住む迷宮が周囲にバレないように、村人を取り込んだという時点で合格点。あとはおまけというか蛇足。そうそう、この世界、脚のある蛇がいるらしい。蛇足と行っても意味が通じない可能性があるが、そもそも蛇の定義はどうなっているのだろうか?
ちょっと急ぎ足で設定してみたものの、まあ、最初の体勢はこのような感じで行ってみようと思う。鉄は熱いうちにうてとも言うし。ある程度コントロールしておかないと、祭りの贄が人になる可能性もあったから。さすがにそれはマズい、周囲との軋轢がありまくるのはダメ。目立たない、秘された神というコンセプトだから。強烈なタブーによって村人達に秘密を守らせる雰囲気を作るという手もないではない、けど、現状迷宮に取り込んでいるので、かなり思考を誘導できる、ゆえに、秘密はなかなか漏れにくい。それならば宗教に走らなければいいのでは?いや、思考誘導に費やすエネルギーの節約の為に宗教という形を用意してみた……といった心の動きを客観的に説明してみる。
それとも、私もまた、あの大いなる者、深淵に眠る神のご意志、それが影響を及ぼしているのか、幻でしか無いはずのあれが、実在するような、そのような心持ちになるのは、あの幻には実在するモデルが存在すると無意識化に認識しているのであろうか、いやしかしワタシは見たのだ、あの真なる暗闇、なにもかも吸い込む暗黒の星に住まう御方が、うっすらと目を覚まそうとしているのを、いや目というのは比喩であり、揺り動かされる衝動を、起きるという現象そのものの波動めいたものを、冒涜的な衝動を、ワタシは感じて、歓喜し……。
はて、私は何を考えていたのだろうか、数秒ほど、思考が飛んでいる。さすがに疲れてきているのだろうか、この肉体が情報処理など頭脳労働には強いとは言え、可動しはじめてからそれほど立っていないのであるから、無理は禁物。栄養を取って休まねば。
死んだ真似をしている迷宮に生まれたホムンクルスと、そこに助けを求めてきた猫耳少女とのその後の様子が語られる下り
さて、ある程度は予想していたのだろうが、幻覚によって、卵の騎士が消失した場面を見た猫耳少女のスノウは、2日後再び山中の迷宮を訪れた時に、自然に対応へ出た卵の人をみてもそれほど驚かなかった。ただ嬉しそうに抱きついただけ。消滅した卵の騎士の姿は、幻だったことは雀のキリトによって解説済み、村の復興というか大胆な改造?改変?も渦中ではあるものの、それ故に抜け出すのは難しくなかったよう。今度は雀のガイド+機動棺桶資材運搬バージョン定席付きがあったので、かなりスムーズにこちらへやってこれたよう。具体的には30分くらいで。
いつもの飲み物、温めたなにかの乳を処方する。もう薬は最低限しか入れていない。そろそろなじんだころなので、いらない気もするが、念の為。あと、体調を整える薬も入れてある。少女を、ちょっと色々これから調べたり、調整したりしたいから。
元秘密結社の怪人、その血を引いた一族であるので、いろいろ調整しがいがある。丁度、村を救った報酬として、体を差し出してくれているので、患者?素体の提供のコンセンサスも取れていることにしている。まあ、寿命が縮まることはないし、むしろ健康?長生きできるようになる方向で行くつもり。長期運用が、結果としてコストを安くする……かどうかは微妙ではあるけど、ホイホイと使い捨てるのももったいない。
その都度使い捨てるほうが、かえってコストを下げるという意見には賛成ではあるものの、最低限の倫理観は持っているべきではないかな?と思うしだい。大事に使おう、貴重な実験体、これはなんというか愛といってもいいのではないかな?
「あいされてる?」きょとんとした表情でこちらに聞き返す猫耳少女のスノウさん。
「そういう認識でも間違いない」にかりと笑う卵の人。大きな口はひと口で少女の顔を飲み込めそう。しかしそのような異形をうっとりとながめるスノウさんであります。
ちょこちょこと、こちらの迷宮にやって来てもらう必要があるので、地下通路を作成する予定、物理的に村に生まれた即席栽培迷宮とはつながっているので、あとは拡張と、高速移動用のレールを引くだけ。直通にすれば数分でこちらまで来れるはず。
どのようにしようかな?とりあえず調整槽の整備をしておいて……肉体改造からかな?筋肉の質の向上と、必要な栄養素とか用意しないと。
「何か食べられないものはありますか?」
「たまごさまからいただけるなら、なんでも嬉しいです」完全にたらし込まれてますね。良いことです。アレルギーはこちらで調べますか。やはり猫舌っぽいですが、年齢を考えると自然なことなのかもしれませんし。刺激物は避けましょうかね?直接肉体をいじるのと、中から作り替えるのと、戦闘方法の確立と、内臓武器の仕込みと……レーザーくらいは放てるようにしましょうか?それはそれで美しくないかな?自己再生とかまでいかなくても回復力を上げておきましょうかね?ああでもそれに見合う動力源が必要?バランスが大事でしょうし、まあ、時間はありますから、ゆっくりあせらず着実に、最強生物を誕生させるステップの第一弾となって頂きましょう……、完成は数世代あとでしょうかね?
にこにこと笑う少女をタマゴ型汎用デバイスのカメラ越しに見ながら、片手でつまめる甘味を食べている私。ドライフルーツみたいな何かです。
さて、次は何をしましょうかね?




