13話目 タマゴの騎士はいかにしてピンチを脱したのか、さらに華麗に空中を舞うタマゴの剣と、首が減っていく迷宮竜の悲哀、というくだり
粉塵の中、際どく三つ又首長迷宮竜の熱線を回避するタマゴの騎士、そして空を翔ることについての方法論を思考するくだり
熱線に飲み込まれるコンマ数秒前に思念誘導によって起動させた脱出装置によって、機動棺桶の座席ごと上空へと舞い上がるワタシ。ちょっと加速度がキツい。あと、少しギリギリで機動し過ぎたのか、体のあちらこちらがこげて、煙が上がっている。
自動的に開く座席に連なる、パラシュートを横目に、手早く保持していたジョイントを外して体を自由にし、座席を蹴り、空中へ踊り出す。このタイミングで悠長に落下傘降下を行っていたならば、迷宮竜の良いまとだから。空中へ踏み出した脚が、何もないはずの空間を捉える。ワタシは、まるで見えない床がある様な振る舞いを行う、つまり宙を駆ける。周囲に飛ぶさえずり雀の魔法による補助、空中歩行やら、空中走行やらのたぐい。正確には、重力に逆らうようにある一定の平面を設定にして、反作用を起こしているという魔法。相変わらず非効率。ここまでするのなら、対象の質量を発生させている粒子そのものに干渉して、0にした方がエネルギーのロスが少ないであろうと思う。まあその場合は、風の影響をもろに受けそうなので、その辺りの調整も必要……ああ、質量を操るのだから、作用反作用も自由自在か。また、これは、おそらく、空中を歩くということが、術者にとって想像しやすかった為に起こった、魔法で空中移動を再現するという現象の迂遠さというものであると推測。ともあれ、数歩、その様な魔法で作られた足場で空を走る、その内に次の雀さん達の魔法が発動。次々に足場が作られていく。その足場は薄く輝いているので視覚化が可能。まあ、見えるので踏み外さないという程度。空中の道というには、途切れ途切れ、言うならば、空中の飛び石といった感じ。
その場所は重力と拮抗する力を作用させたもの。重力加速度は場所に変わらずほぼ一定であるのであるから、パラメタの設定が楽という理由もあるのか、この魔法。この魔法の対象はその上に立つことができるというもの。かけられる重量に制限あり、およそ200kg、それを越えるとかかる力に比例して、徐々に落下というか降下していく。安全装置付きといった塩梅。加重によって発動しはじめるので、上に何ものっていない状態では、あらゆる粒子に働きかける魔法の粒子の消費は最低限に抑えられているので持続時間もそこそこ長い、らしい。使用したのはこれが初めて。まあ、やりながら、学びながら、仕事をするのには慣れている。ぶっつけ本番といったたぐいは、かなり経験があるような、何だろうこの無茶ぶりには既視感。結構あちらの世界のワタシはそういう体験ばかりしていたよう。ブラック企業ってなんだろうなこの単語?
重力というものは、一定以上の質量をもつものが及ぼす力、簡単に頭の中で現象を確かめる。おたがいに引っ張り合う力で、かなり遠くまでその力を及ぼす、その力は質量と距離に比例する。あまり強くない力で、運動やら、他からの干渉によって、見かけの状制御が可能。つまるところ、それに逆らって、移動することが物理的に可能という意味なわけであるが、この魔法は重力という力そのものを操っているという点で、他の方法とは少々違う。結果は同じなのかもしれないけれども。上から加えられた力に丁度釣り合うように下から押し上げているという、まあ言ってみれば単純な事ではあるものの、その設定は複雑怪奇なものになるであろうなと想像。力の加わる角度が設定した面へどのように当たるのかも考慮に入れなければならない。空中に厚さの無い板が置いてあって、その上にたつ、これは問題ない、しかし上斜めから力を加えると、どうなるのか?やはりベクトルが合成されて、体勢が崩れるのか?真横からの力はどうなるのか?そもそも下から突き抜けた場合は?など、種々の力の向きに対する反応の制御など、これはもう、かなり、ややこしくなるはず。解決方法とあげるならば、いっそ、その重力に逆らうエリアに厚みを持たせてみるといい。空中に浮かぶ茶色い煉瓦でつくられたブロックを想像して見る。これなら、真横から当たってもそこにあるていど表面積の有る障害物がある、と振る舞うことができる。下からの衝撃はそのまま障害物があるように振る舞うのであるから、移動が阻害される、もしくは、その空中に浮かぶように設置されたエリアを壊すとかの対応をとるように、対応を設定させておけば、そこで移動が止まるという不具合を解消できるし、見た目も自然でイメージしやすい。なんだかあちらの世界で似たようなモノを、ディスプレイ越しに見た記憶がある。まあ、空中に浮かぶ煉瓦と言っている時点で不自然きわまりないし、そのようにエリアを広げるのはやはり多少エネルギーの消費量的に気になるところ。
まあ、そもその、省エネルギーという観点では空中に重力を制御する空間を設置するという迂遠な方法を使っている時点でなんだかなという感じではある。対象に直接作用させないので安全度という点では優れているのか?
今回のこの魔法、厚みはないと言っても、本当に物理的に存在しないので、真横から当たると反作用が起こらないだけで、すっぱりとツッコんだその身が切れるということはない。下方向からの力に対しては、反応しないように設定されているので、単純に通りすぎるだけ。ただ、エリアの途中で止まるとエリアの上に上がった質量に反応して押し上げるので、結果設定エリアの上まで移動することになる。これはエリアに囚われて、移動が阻害されるのを防ぐため。
ちなみにアレンジで、力のベクトルを重力と逆らう方向、つまり上方向とは別の、方向へと向けたエリアを創造できることもできる。このアレンジは、この魔法の仕組みをある程度理解していなければならないので、呪文を丸覚えしているこちらの世界の人には無理な話。まあ、以前にも思考したけれども、こちらの世界でも専門家なら、簡便なアレンジは可能であるのだけれども、魔法の原理、あらゆる粒子に干渉できる粒子、に対する研究があまり進んでいないので、自由自在に魔法を創造するという存在は希少というか、ほぼいない。多分あちらの知識が無いと無理か、時間がかかる。思考誘導されている可能性もあるので、ここの点は要検証……ああ、頭のボードに既にカードが銀のナイフによって刺さっているな。
で、空中歩行というか、空中飛び石のアレンジの話。この魔法はつまるところ重力および質量制御の魔法であるわけだから、直接対象に働きかければかなり酷いことになる、つまり、力のベクトルをその対象に対して別々に働きかけることで、引っ張り破壊を企てることが可能であるということ。加重に対する反作用の安全装置的は箇所をなくして、加速度の向きを丁度逆方向にしたエリアを、対象の二カ所、対となる場所に設置させていやれば、その対象は一続きの質量をもつのに、反対方向、それぞれ別の方向へ落ちていくという、有様にとなってしまう。重力加速度はあちらの世界とほぼ変化が無いようなので……計測する基準である光の早さそのものが違う可能性はあり、ただし、到達速度の変化は代わりなく、物質に及ぼす影響も変化無しの故に、特に気にするほどのことはなさそう。
ただ単なる空中歩行の魔法が、少しのアレンジで、破壊力抜群の攻撃魔法へと変化するというお話。もっとも、今回は時間が無かったので、その安全装置的な術式の撤去が間に合わなかった、故に、アイデアのみのお蔵入り。まあ、そんな迂遠な方法でなく、破壊に関して言えば、かるく分子間結合の崩壊とかしてやれば、それで発生する熱量で終わる話。こちらも、多重に記されている魔法の安全装置の解除がなれば、問題ないので、単純に破壊という点では、実はもう究極に近い力を手に入れているようなもの。これからの研究というか、作業に時間が多少掛かるけれども。
何が言いたいかというと、今回の即席栽培ダンジョン攻略には間に合わなかったという話。通常からかなり外れた魔法はまだ用意できない。ただ、少しのアレンジはできたので、使用してみる。というか、させてみる、さえずり雀に。魔法の飛び石の重力制御方向を90度傾けて水平方向へ、そして、いくつか複数並べてみる。ワタシは、とん、と空中の飛び石の一つを蹴って、その水平方向へと傾けた、最初の飛び石へと頭から突っ込む。半ばが過ぎた辺りで通り抜けた質量が反発して上へと移動、その移動が終わる前に、次の並べられた飛び石へと頭が突入、そして、また体が半ば過ぎた辺りで魔法の力で反発が発生、次から次へと、魔法の飛び石、というか、光の板を過ぎていくごとに加速が加えられ、スピードが増していく。目標は迷宮から生えた、三つ又首長竜。
直撃コースから、わずかに外れたコースを選択させて、突進、すれ違いざまに手に構えた両刃の剣を叩き付ける。手が持っていかれそうな衝撃が走る。思ったよりその衝撃が低いのは、切れ味が高いから。その全長半ばから、首を一つ叩き切る、自重で崩れ落ちる三つ又首長竜の一つ首。これで、二股首長竜となったわけ。
タマゴの騎士である所のワタシは、そのまま飛び石で宙を曲がり、また上空へと飛び上がり、首長竜の上空へある、一つの飛び石へと着地、そこを狙って、残った首が熱線を放つ。飛び石から飛び降りて回避しつつ、本来の重力加速度にプラスして、上下逆方向にした魔法の飛び石で、落下方向へとさらに急加速。ほとんどVの字を描くように、地面近くで反転、加速のGを耐えるために、大きく白い歯が食いしばられる。そのまま、顎の下から、首長竜の首、顔の近くを切り上げて、落とす。今回は衝撃があまりなく、すっぱりと切れる。上へ向かって落下したワタシはそのまま自然落下、と見せかけて、飛び石を使って、ジグザグ機動。最後の首から放たれる熱線が、こちらの動きを追ってくる。
ところで、この熱線もまた質量を持っているので、この飛び石でベクトル操作が可能である要素があるのだが、どうやら、その熱線を狙い通りに発射する所、制御にも、魔法の粒子を使っているようで、この飛び石程度の粒子量では干渉が難しそう。大量に重ねればなんとかなるか?試すほどには、雀さんたちの魔法の粒子量が残っていないか?
今回は、思いついた、ちょっとした工夫を使ってみたかったので、飛び石を利用して、空を駆け回っているが、そもそもタマゴの騎士としてのワタシに、直接揚力を作り出して、飛んだ方がシンプルで良かったのじゃないかとか、エネルギーの節約になったのではないか?という疑問は、とりあえず置いておこう。
冗談はよそにして、飛び回る対象に粒子を働き駆け続けるというのは、ちょっと制御が難しかったという理由もある。……そもそもこちらの世界には飛翔するための魔法があるのではあるが、タマゴの騎士は自身の、その魔力粒子使用領域を別のモノに割り振っているので、使えないという理由もある。
さて、では残りは首が一つ。再生も追いついていないように見せている。結構最初から盛り上がっていた戦闘も、そろそろクライマックスといった感じ。観客の避難も完了しつつあり、会場も暖まってきましたというか、熱い、熱線の影響。
それではタマゴの騎士最後の見せ場といきましょうか。




