10話目 見た目がそのまま、動く棺桶の、その機動の機敏さと弊害、さらに、さえずり雀は本当に口が悪いというくだり
多脚棺桶の運動性能についての感想を連ねるくだり
騎手となんとかは小さいのに限る、などという台詞が頭に浮かぶ。元秘密結社のアジトであるところの迷宮の一階出入り口より出撃した八脚棺桶を操縦しながら変な笑い声を出しつつ思う。山肌には針葉樹が広がっている。ふもとの村へ続く道はもともと獣道程度の物しか存在せず、うっそうと生い茂っている草木にわずかに見える山肌、と言った案配。岩や、小石もごろごろと転がっていて、脚をとられそうな、粗末な整備されていない道。急勾配の山肌をジグザグに、通りやすそうに、木々を避けて、もしくは巨木の下をくぐっていくような、自然発生した道。
そして、そもそも、移動時間短縮のため、わずかに走りやすいその道筋すら無視して進んでいるという現状で、いったい何が起きるのか。
四対八脚の棺桶型ビークルの移動方法は見た目にたがわず、その脚を有機的にわさわさと動かして走るというもの、その脚の動きそのものがサスペンションとなって、上下方向の揺れを軽減する仕組みになっている。つまり、高低差を脚の動きでできるだけ乗客に伝わらないようにしている。これは重心を一定の高さに保つことで、高速機動をする仕組みの恩恵。しかしそれは、平地を疾走する時の話。
ここはどこ?ここは道無き山。勾配もキツい。当然障害物も多い。なので、移動速度は慎重に障害物を避けてゆっくりとしたものになるのかと思いきや、このデバイス、止まらない。一瞬たりとも止まろうとしない、いや、操縦しているのがワタシなので、他動的な言い方はどうか?
とどのつまり凄い振動。上下だけでなくて、左右も。木々の隙間をくぐり抜け、薮の合間をかいくぐる。器用に動く、マニュピュレーターを兼ねる足先で、樹木の表面を掴んで、移動エネルギーのベクトルを消さないで、水平を保ちつつ、反転しながらくるくると進む。または、枝ぶりのよい木にぶら下がるようにして、今度は縦方向へくるりくるりと回転しながら進む……。棺桶と一体化していなければ、酔うといったどころではないな、と三半規管をいいように撹拌されながら、脳みそが思考していくのが解る。周囲を飛び回る雀型の探索デバイスの情報を処理しつつ、障害物を避けながら、というか、障害物を利用しながら、直線に近い動きで移動。
あちらの世界でいうところのフリーランニングに近い機動。進行方向の地形を読み取って、移動エネルギーをベクトルで管理、前の動きが次の動きの位置エネルギーになるという。結果移動速度は時速で言うと20キロ程をキープ。あっという間にふもとの村に付きそうな勢い。当初の予想をはるかに越えるのは、操縦者の腕ということにしておく。いや、実際にやってみるとできるものだなと。
そして、この機動による振動というか、なんというか、嵐にもまれる小舟のごとくの、上下左右移動、上下反転によるてんやわんや。もっとも、正確に周囲の状況を読みとった上で、思考誘導によって操縦しているワタシのほうはましというか、それほどダメージは無い。きっちり固定されているし。この手の乗り物?は操縦者は酔いにくいというもの。ただ、後ろに座っている猫耳少女の様子が気になる所。最初ははしゃいでいるような、悲鳴のような、声が聞こえていたが、いまではそれもなく、いや時々うめき声が聞こえるので生きてはいるよう。
そういえば、なんか最初の方に、
「やめて、もうだめ、とめて、こわい、しぬー、ひー」とか言っていたような気がするが、今は静かでなにも問題ない。……あとで甘い言葉でごまかしておこう。最暗示用の、ミルクの飴玉はポケットの中にあるし。
まあ、下手にしゃべると舌を噛みそうではある。ので静かなのは、問題なし。もどさないでいてくれれば。
少し手加減して移動速度を落とそうか……まあいいか?。
秋口、やや寒い気温。風を切って進む多脚棺桶型ビークル、紅葉が奇麗。風に舞う落ち葉が卵型の顔の側を通り過ぎる。この機動でオープンな座席というのも、恐怖を増量する原因なのかもしれない。たまに、沢や深い亀裂を、飛び越える。センサの隅に危険度がやや高い生物の一群が表示されるが、この移動速度にちょっかいをかけられるほどには、近寄らない、有無をいわせず凄いスピードで走り抜ける。三次元的なこの機動、走るといっていいのか?という疑問が頭をよぎる。
全長が2mを越える、機動脚も含めると最長4mほどの、大きなデバイスが、山肌を三次元機動。ちなみに、重量は操縦者を含めて500kg以下に抑えている、重量の軽減には魔法も併用しているが、純粋に技術力も高い。材料の硬度も魔法で高めてあるよう。便利だな。
しかし、うん、この移動方法を考えたエンジニアとやはり、少しお話が必要かもしれない。単純に空を駆ければ良かったんじゃないか?という疑問も浮かぶが、森林内での抑止力という観点から言うと、この機動は正解……といえるのかもしれない。趣味が多分にあふれているという点は否定しようもない、というかマニュアルの隅にそう記述されている。なんだこのコメント、ふざけているのか?当時の一般戦闘員の悲哀が聞こえてきそう。これは、常人なら一発で目をまわすな、と、そして、事故をおこしそう。なるほど、歩く棺桶というか、飛び回る棺桶というのは言えて妙。しかし正式名称よりそちらが先にでてくるようでは問題ないだろうか?もしや、多脚棺桶が正式名称ではあるまいな……。ドライバーが呼称するのはともかく、エンジニアが言う名称では無いような気がする。いい趣味している。
無数に存在する雀さんと共にダンジョンアタックの最終調整をするくだり
あと数分進むと村が直接ワタシの視覚センサに引っかかるというところで、ビークルを止める。後ろを見ないで、猫耳少女を確認。全身の毛が逆立っている。大きく眼を見開いて硬直している。口は閉じてあるので、虫とかは入ってなさそう。もちろん外傷は無い、バイタルはまあ正常?ただ気絶しているよう。意識が無い。
ジョイントを外して、体をの自由を取り戻す。少女の体もしっかりと固定されていた安全具を外して、抱きかかえて、地に降りる。脚を畳み、降車状態の多脚棺桶、高さは地面までは1mほど、側面の出っ張りを足がかりにしてというか、もともと乗降用に刻んだものだろうそれを、使用して器用に降りる。
水筒を開け、飲み口を少女の口へとつける。ほとんど無意識に近い感覚で水を口に含む。ミネラルウォーター、適度に冷やされている。これも魔法の産物、いわゆる魔法瓶?そのようなやくたいもない思考が脳裏を走る。そして、ぼんやりと意識が戻る少女、白く細い指で、そっと、その口に飴玉を入れる。甘い、ミルクの香りのするそれをなめているうちに、少女は再起動したよう。眼の焦点が合う。そして、安心したように、絶対の庇護者に抱きかかえられているという喜びを感じてほんわりと笑う。薬効成分は低め、最初の暗示を強めるためだけの味成分が主体、そういう役割の飴玉。
まあ、普通に、甘いものは心を落ち着けさせるには有効。とくに小さな子供相手には、フェイバリットアイテム。
で、その猫耳少女は、周囲を見渡して、そこが、村の近くの少々山間の開けた空間であることを確認する。
「いつの間に……」で絶句。
「まあ、飛ばしましたし。でも安全運転でございまししたよ?」さらりとのたまうワタシ。
「……あんぜん……」
「ビークルに傷一つございません」卵形のボディの胸を張るワタシ。
「わあ、すごいすごい、あっというまについたよ、すごいよタマゴさま」ちょっと虚ろな目をしつつ褒め称える猫耳少女のスノウさん。
「さて、では最終確認をいたしましょうか」と、その広場にぽつんと立つ木に視線を向けるワタシ。
その視線の先には高さ5mほどの木が、広場になったところに、ぽつんと立っている。広葉樹で、葉は真っ赤で大きい。あちらの世界でいうところのポプラに似ている。その枝に巣食うわ無数の雀。数はおよそ500羽ほど、正確には、512羽と1羽。それが、無言でワタシに視線を合わせている。
後ろでひい、とか息を呑む少女の声がしましたが、気にしない、気にしない。
雀の一羽と視線を合わせ、きちきち、ちきちきと作動音がわずかに響いて、光通信を実行データの共有と、時刻の動機、作戦内容の確認と変更、現状の確認。
と同時にぴちぴちと、さえずりが始まり、術式のフォーマットを開始。索敵のみから、殲滅破壊系への魔法を、集団魔法術式として、発動領域へ刻印。機能拡張、圧縮格納していたアプリケーションを解放、起動状態へ。メモリを食うので通常使用しない機能は眠らせているという仕様。
数百の雀が、うなるようにさえずる。一つ一つは可愛いフォルム。だけども集団だとなんだか、いろいろくるものがあるような気がする。気がするだけ。
数分で起動状態へと移行、ぴちちと一声、一斉にさえずりが響く。数百のさえずりが一つにまとまる。鳴き声が衝撃となる。ワタシのマントがその空気の振動でなびく。そして、雀達は飛び立つ。無数の恐ろしき雀達が一斉に。飽きの青い空へと飛び上がる。
「後、数刻で日が傾きます」
「ええと、そうですね」少し眼を回しながら、少女が答えます。
「日が落ちる前に、ダンジョンを攻略します。確認いたします、ダンジョンの壁を壊したあと、村人の避難誘導をお願いします。一羽、雀を案内につけます」細く白い指に雀を一羽とまらせて、少女に渡します。
「何か解らないことがありましたら、この雀さんに聞いて下さい」
「聞いて?」
「おう、まかせな嬢ちゃん、おいらが、無事皆の所へ案内するぜい」
「!しゃべった?」
「あたりきしゃりきよ、今どき音声対応デバイスは標準装備だぜべらぼうめ、しょうべんくさいお嬢ちゃんよ」
「口悪!」
「こらこら、ええと、雀さんよろしくお願いしますよ」
「おうともよ、そうそうオイラのコードネームは”キリト”な、意味は霧の都ていう意味だぜ?乳臭いじょうちゃん」
「臭くない!」
「そうですよ、スノウさんは良い香りです」
「そんな」照れる少女。
「嗜好がチャールズ・ドジソンと同じかよ!……おじょうちゃん気をつけな」
「失礼な。同意はとりますよ」
「タマゴ様はすばらしいかたです!」
「まあ、お前らがそれでいいならいいけどよ?じゃあ猫耳ちゃんは、おいらにまかせな、最高のタイミングで誘導してみせらぁよ」ニヒルに笑う雀のキリト。
「ダンジョンアタックのタイミングはこれから丁度30分……ええと、キリト、カウント」
「あいあい、ち、ち、ち」と時計の秒針が動く音を発する雀。
「あの?」
「うんあの同じ間隔でしている音が、1800回したら、正確にはあと1774回、1773回……くらいでこの機体でダンジョンへ攻撃を開始します。でタイミングを見計らって、雀さんたちの大規模破壊魔法でダンジョンの壁を破壊しますので、衝撃がおさまってから、侵入、して村人の避難誘導をお願いします。周囲の状況は、キリトが知らせてくれます。で、そのあいだの安全はこちらで確保しますので、ええとそうですね、森のなかへ住人を避難させて下さい。避難が完了したら、再度こちらは迷宮内へ突入して、コアを抑えます」
なーに、生まれたばかりのダンジョンなんぞ、ドラゴンの子供の手をひねるが如きですよ。と笑ってみせます。大きな卵形の顔についている、これまた大きな口で、白い大きな歯をキラリと光らせながら。
「はい、ありがとうございます」
「お礼の言葉は全てが終わった後に、あなたの笑顔とともに頂きます」
微笑みを浮かべるタマゴさま。ちなみに、恩に着せてあれやこれやできるかもとかは、適量にしか思っていません。ワタシは紳士でありますからな。
「さあて、それではまいりましょうか」ちゃきりとランスを回して構えて、多脚棺桶に鎮座するワタシ、真面目な顔で、正面を向いて、走り?始めます。くるり、くるりと、相変わらず凄い乗り心地。
さあ、ではダンジョンアタック。
言葉の意味とおりに、迷宮への襲撃ですが、始めるとしましょう。




