Prologue
やぁ。良く来たね。
まぁゆっくりしていきなよ。コーヒーでも飲んでさ。
いい店だろ?静かだし、夏は涼しくて、冬は暖かい。やたらとヒゲや耳を引っ張りたがる子供も来ないしな。
そうそう、このソファーがお気に入りでね。ここでこうしてゆっくりと眠るのが一番。
え?退屈じゃないのかって?
退屈なもんか。俺がこのソファーから一歩も動かなくても、世界は物語で溢れてる。
どこにって?・・・なぁあんた、自分はこの世界の「その他大勢」だとでも思ってないか?
そんなわけないだろ。あんたは「特別」でいつだって「主人公」だよ。
だって、あんたと同じモノはこの世に二つと無いじゃないか。
謙遜するなよ。別に褒めちゃいない。
あんたがそれを感じていないなら、それはまだ巡り会っていないだけだ。あんたっていう「主人公」を必要としてる存在にね。
それは人間とは限らない。獣かもしれないし、物かもしれない、はたまた世界そのものってこともあるかもな。
あんたともう一つの「何か」、その二つが揃えば、物語は勝手に動き出す。
この店はつまりそういう店なんだ。特別な力って程じゃないが、方角とか、星の動きとか、なにか良くわからないモノの流れとか滞留とかで、そういうことが他よりちょっとだけ起きやすいみたいだな。
毎日来るばあさんの中にそういうのに詳しい人がいるから今度聞いてみろよ。
まぁ、幾らかは俺の細工もあるんだけどな。
ん?言ったろ?暇つぶしだって。「特別」なのはあんた達だけじゃない。
そうだ。今一番のお気に入りがもうすぐ来るぜ。あいつも俺が連れて来たんだ。
あいつはおもしろいぞ。若造だけどな。
ほら、来た。まぁ見てけよ。コーヒーはおかわりだな。
さぁ、物語の始まりだ。
あいつと、もう一つのピースは・・・
あんたかもな。