もひかんといっしょ。 ~ハートフル世紀末ファンタジー風味~
所謂一発ネタ。「ほのぼのした恋愛」をテーマに製作しました。
≪四月二日≫
未来の私達へ、お元気ですか?
今日、私達の入籍を記念して初めて日記を付けようと思います。私達夫婦の日常と明るい未来のために、そして将来
「昔の私達はこんなことがあった」
「こんな生活を送ってたんだ」
というのを懐かしく振り返ることができる、そんな思い出の記録を作っていきたい。そう考えた結果がこの日記です。
でも不思議なのは、何で結婚のときになってあんなに自警団の皆様や町中の知り合いが怖い顔してたんでしょう。確かに夫は奇抜な髪型や服装を纏っていて、
「これから始まるのさ、俺達の栄光の日々がなぁ~!!ヒャッハッハッハッハ!」
「この女は最早永遠に俺様の物だ、二度と手放す事なんざしねぇから、精々安心して俺達の姿を後ろの影から眺めているといやがれぇ~!!」
と大声で高笑いするかなりハイテンションな性格ですが、それが夫のチャームポイントです。でも何故か結婚式だというのに皆険しい顔というか憎々しそうな視線を送っていたのでしょうか、何かあったのかしら。
≪四月十五日≫
結婚からもう十日以上過ぎましたが、私達は何時も刺激的な愛を送っています。今日も夫が
「マゼンダァー! 今日もしっかり獲物を狩ってきたぞぉ、心の底から泣き叫んで俺様に感謝するんだなぁ! ヒャッハッハァー!」
何て言いながら、大物のオーグを狩ってきてくれました。オーグは身体が大きく力も強いので狩るのは大変らしいのですが、一度狩れば上手く捌く事でオーグ一匹につき、十数日分もの食糧を得られます。オーグ狩り成功を祝って、今日の夕飯はオーグのステーキですと夫に伝えると、
「その程度の貢ぎ物を出された程度で、この俺様の機嫌が取れると思ってやがるのかぁ? ああん?」
と言いながら凄い剣幕で言い寄ってきました。
少し怖かったですが、よく観察すると目からは喜びの感情が覗けます。言い方はちょっと荒っぽいところはありますが、何処か照れ屋な雰囲気があるのも私の夫のチャームポイントです♡。ああもう可愛いなぁ!
≪四月十八日≫
夫が大きなナイフと太い鎖を持って、今日も狩りに出かけます。手に持ってるナイフはとても太く、あまり見た事のないナイフで、夫曰くアーミーナイフと呼ばれる武器だそうです。今日も夫は
「俺様がこの地に恐怖を振り撒いてゆく姿を、しかとその目に焼き付けやがれ!」
と言って、何時もの狩りに出かけます。身体の弱い私にとって、夫のあの全身が筋肉に覆われた逞しい姿を見ていると、少し羨ましいなと考えてしまいます。だけどあのトゲが生えた肩当やトサカみたいに縦に一直線に伸びた様な髪型、黒いサングラスは、どこで知ったんでしょうか・・・・・・。
≪五月二十六日≫
家で夫の帰りを待っていると久しぶりに友人のジュリが顔を見せに来ました。だけど何故かジュリは顔を青ざめさせ、何かビクビクしてるような、何かに隠れるような表情で来るので、心配して訪ねてみると、ビックリしたような顔で何度も何度も
「大丈夫! 大丈夫だから!」
としか言いません。明らかに何処かおかしいです。相談でも聞こうかと考え、そろそろ夫も帰ってくるし、三人で一緒に話そう、きっと夫も親身になって話に乗ってきてくれると伝えると、急に顔面蒼白になり、用事が出来たと言って慌てて帰ってしまいました。久しぶりに会った友人と夫の三人で仲良くしたかったのに残念でなりません。
今日の夫の収穫はユニコーン十匹でした。全身返り血で真っ赤に染まった身体には所々血がにじむ等傷を負ってしまっているみたいですが、それでも夫はまだまだ戦い足りないのかピンピンとしていました。
殆ど人と出会う事の無い、とても珍しい動物であるユニコーンをこんなに捕えるなんて流石夫です!
夫曰く、
「あんな目立つ金の角を付けてる白い畜生なんざ、俺にとっちゃ唯の的にしてくださいと言ってるようなもんだ! あんな青臭ぇ小娘にしか媚びねぇ臆病者の馬如き、俺様が狩れない筈がねぇ!」
とのこと。オーグといいユニコーンといい珍しい獣を狩る夫はとてもかっこいいと思います。
あれ、でも確かユニコーンって一つの地域にたった十匹位しか住んでいない希少な動物だったような……。
≪六月二日≫
今日から夫が少し遠くのオーセイユ街に出かけに行きます。オーグやユニコーン等、夫が捕えて捌いた貴重な動物達の素材を売りにいくそうです。夫も、
「なぁに、俺様の手にかかれば大金を得るなんざ、お茶の子さいさいよ。盛大に売り払ってやるさ、特にユニコーンの剥製や毛皮は高く売れるぜぇ~」
と威勢のいいとても元気な返事をくれました。こうして私が書いてる文字からも夫の元気な姿が分かってしまい、私の顔からも笑顔も零れてします。私に出来ることは夫の無事を祈ることと、夫が居ない間家を守ること位ですが、少しづつがんばって行こうと思います。
それと帰ってきたら、貴方が好きな採れたての種モミから作った白いご飯をたっぷり炊いて、気長に家で待ってます。と夫に伝えると、
「中々に出来た話の分かる女じゃねぇか。やっぱりテメェは最高にいい女だ、ヒヒヒ……」
と喜んでくれました。やだもう、少しの間離れるだけじゃない、そんな事で褒めたり茶化さないでください、イジワルな人なんだから・・・・・・。
≪六月五日≫
夫が街に出稼ぎに出て三日後、ジュリさんと一緒に青年団のルーさんが来てくれました。何でも此処の所、
「さがれ! 道を開けろ~!」
「汚物は消毒だ~!」
等といった物騒な叫び声と、掌から炎を放ち、野生の魔物や動物を見境なく焼き殺しながら山を歩く大男が、オーセイユ街に向かっているそうです。ルーさんとジュリさんは、何故かしきりに夫の事について聞いてきましたが、私の夫がそんな恐ろしい真似をするとは思えません。
確かに言葉使いは悪いですが、暴力的では決してありませんし、何より夫は優しい方ですので、きっと人違いだと思います。なのでルーさん達には
「間違いなく人違いです」
とキッパリ伝える事にしました。ルーさん達はまだ怪しんでいたようですが、しぶしぶ納得したのかゆっくりした足並みで玄関から出ていきました。
それにしても、最近は物騒な世の中になってきた気がします。最近ではこの辺りに住んでいる貴重な動物達が消えてしまったとちらほら話題になります。
夫も今頃、その火を撒く不審者が現れた辺りを歩いてオーセイユ街へ向かっている筈です。遭遇してはいないか、巻き込まれてケガ等していないかとても不安になります、大丈夫でしょうか・・・・・・。
今日の夜は、結局夫が心配で中々寝付く事が出来ませんでした。
≪六月十四日≫
行商の為オーセイユ街に向かった夫から久々の手紙です!
何でも持って行った売り物が飛ぶように売れ、多くの収入が来たとの事。中でも一番の売れ筋はユニコーンだそうで、ユニコーンの素材は希少且つ高値で売れるので一番収益がいいとの事。他にも多くの商品が売れてる等、オーセイユ街の報告を聞く限り、向こうでも元気に活躍していて安心します。今度手紙を送る際にはどんなやり方で売ってるのか聞いて見るのもいいかもしれません。
そういえば今朝の新聞で、オーセイユ街近辺に、巨漢の不審者がいるそうです。何でも
【『ヒャッハー! 此処の道を通す訳にはいかねぇなぁ、通りたきゃ此処にある物全部買っていきやがれ! 食糧がある方が余裕を持ってオーセイユ迄着けるってもんよ!』】
とか、
【『ここらには凶悪な不審者や山賊が多いからな、特別に格安料金でそいつ等からテメェを守ってやろうじゃねぇか。有り難く思うんだなぁ~。
何ぃ? そんなのは要らん、そもそもお前が山賊じゃないかだとぉ!? 人の親切を無碍にしやがるふざけた事を抜かす野郎だ、なら前払いにテメェに道中で襲われる恐怖でもたっぷり叩き込んでやろうかぁ~!』】
等と恐ろしい事を行っているとか。生憎怪我人等は出ていないらしいのが不幸中の幸いだと思います。 不審者は夫は見た目が似ているかもしれないので、犯人にされないか少し心配になりそうです。
今私に出来ることは、夫が巻き込まれたりしませんように祈るしかありません。
また元気な姿で逢いに来てくれますように・・・・・・。
≪十二月十七日≫
夫が出かけて早半月となってきました。最近の話では、仕入れて来た商品がそろそろ切れはじめた事、そしてこっちの生活に必要になりそうなものを買えるだけ買ったのでそろそろこっちに戻るらしいです。
つまり半年間待ちに待った、夫と逢える日がやってきたのです!
遂に待った約半月ぶりの夫の帰宅の喜びを隣のジュリの家に伝えに行きました、それを聞いたジュリは、何故かポカンとした顔の後、深刻そうな表情になってしまい、この後用事があるとか何とかと言われ、そのまま私は追い出されてしまいました。さっきまで暇そうだったのに不思議です。
後ろのジュリの家からは何かジュリと主人のアランが大聞く騒ぎ立てる音が聞こえてきます。そんなに大事な用を忘れるなんて余程忙しかったのでしょうか。
そろそろ帰ってくるという事は帰ってくるまで恐らく一週間はかかると思うので、それまでに沢山のご飯を作らなければなりません。
夫は大食漢なので少し大変ですががんばって沢山料理を作る用意をしないといけません。まずは近くに住むお爺さんから種モミを譲ってもらうよう、話に行こうと思います。明日から早く起きないといけません。朝から大変になると思いますが、それでも夫が帰ってきて喜ぶ姿を思い浮かべると、心から楽しいなと感じます。
そろそろ寝た方がいい時間になってきました、朝は早くなりそうですので、早めに寝ないと。
≪十二月二十四日≫
今朝の新聞にオーセイユ街の方で強盗が現れたというニュースが書いてありました。何でもオーセイユ街の大きな富豪様の家や商店に厳つい恰好の大男が押し入り、高い食料品を強引に半値以下で買い取ってしまったとか。不思議な事に金目のものは一切手を付ける素振りをせず、逆にもっと食糧を寄越せと被害者の人達に話したそうです。……あれ、でもそれって強盗なんでしょうか?
顔は不明だそうですが、証言によると何処か産まれてくる世界が間違っているような、そんな世紀末めいた雄叫びを発していたとか。
この辺りも最近は物騒になってきた気がします。夫は大丈夫なのか夜な夜な不安です。
≪十二月二十五日≫
遂に夫が帰ってきました! 半年ぶりの帰宅です!
雪の降る夜の道を通ってオーセイユの街から帰って来た夫は、背中にどっさりと荷物を運んできてくれており、今回の商売はとても儲かったという事が一目で解りました。
もうすぐ年越しというだけあって荷物のお土産内には、長期保存できる食べ物や私が見た事も無いような豪勢な食材がたくさん入ってました。私はこんなに何処で手に入れたのかと聞いてみましたが、
「ギャハハハハ、お前には教える訳がねぇだろう! 例え教えても全て理解出来る訳ねぇのさ。聞くだけ全くの無駄ってもんだ。
そんなことより、お前は黙って早く俺様に手作り料理を差し出して貰おうか。まさか、忘れてしまったとは言うまいな~?」
とはぐらかされてしまいました。きっと働き疲れ、歩き疲れてお腹が減っているんでしょう。さっき作っておいたご飯を出してあげないといけません。
喜んでくれるといいなぁ。そう夫の食べる姿を思い浮かべると、笑いが漏れて仕方がありません。
今日の夕飯は夫が持って帰ってきてくれたお土産の食材と、近所のお爺さんから何とか譲って貰ってきた、お爺さんの家の最後の種モミから作られたお米を炊いた、真っ白なご飯の盛り合わせです。お貴族様達が食べるような沢山の料理の盛り合わせは出来ませんが、今までの生活の中では一番豪勢な食事でした。中でも夫が気に入ってくれたのは真っ白なご飯で、夫曰く
「しょぼくれたジジイから手に入れた最後の種モミで出来たメシを盛大に貪るのは、この世で最高の美味だとは思わねぇか! なあおい!」
と言って勢いよく食べてくれた事から、今回のごちそうは夫の口にとてもあっていた様です。その結果に内心安堵しつつ、私達は雪の降る夜を笑いながらすごしました。
◆ ◆ ◆
「お、そんな古臭ぇ本なんか引っ張り出しやがって、何読んでんだぁ?」
夜、空に満月が昇り世界を照らす月光の光の中、仄かに燃える蝋燭の灯りを一身に受ける妻マゼンダの姿を見かけた夫ジルドは、荒々しい声で後ろから話しかけた。そんな夫の声に反応し、マゼンダは苦笑しながら答えた。
「掃除しようと押入れ整理してたらね、見つけたのよ。私達の新婚時代の、に・っ・き♡」
きゃっきゃと初々しく喜ぶマゼンダの姿と日記発見を聞いたジルドは、さっきまでのぼけっとした表情を一変させて、人が変わったかのように慌てだした。
「新婚時代の日記だァ!? あんな小っ恥ずかしいモン引っ張り出しやがったのかこのアマぁ! とっとと仕舞っちまうか捨てちまえそんなモン!」
一気に酷く怒鳴りつけるようなジルドの口調と声色は、心臓の弱い人間なら一瞬で気絶しかねない声だったが、マゼンダは全く動じない。それどころか笑顔を消すことなく何も表情が笑みから何も変わる事は無く、逆に笑みは深まるばかりだ。
「そんな恥ずかしがらないでもいいじゃないの。ホラ、私が妊娠してるって分かった日の貴方の喜びようといったら・・・・・・。」
「だーっ! そんな情けねぇこと思い出させるんじゃねぇー!」
顔を真っ赤にさせて怒り出したジルドだったが、その顔は怒るというよりも照れ隠しに近かった。そんな些細な違いを感じ取ったマゼンダは、より一層笑みを深くしていく。そしてそれを見たジルドは更に顔を赤くしていく。
その様子はぐるぐると同じ滑車を廻し続けるネズミを思い浮かばせる、所謂堂々巡りというものだろう。だがそんな微笑ましくも不毛な堂々巡りな夫婦喧嘩を、唯一遮るものがあった。
「ん、んん・・・・・・、お、おおお、おぎゃあ! おぎゃあ!」
仲睦まじい夫婦喧嘩に眼を醒ましたのか、マゼンダの横のベットからうっすら金色の髪を生やした赤ん坊の、甲高い鳴き声が響く。それに気が付いた二人は互いにポカンとした顔を見合わせ、軽く苦笑した。
「・・・・・・けっ、俺様達の喧嘩なんて、ガキにとっちゃ耳障りなだけかい」
そう嘯いたジルドはイラついたような口調であったが、何処かさっぱりとした様子だった。そしてその気持ちは、妻であるマゼンダも同じようだった、
「うふふ、そうねぇ。大人の口論なんて子供には不快な物だもの、そろそろ止めにしましょうか」
ねぇシルヴィア? と泣き止み再び眠りについた赤ん坊に、マゼンダはあやす様に語りかけた。
「違げぇねぇや、ヒヒヒヒ。ならそろそろ俺様も寝るとするか」
そうジルドはマゼンダに話しかける。
「そうねぇ。明日も早いし、ちょうどいいかもしれませんねぇ」
そう答え夫婦二人は赤ん坊のシルヴィアと共に眠りについた。
真っ暗になった部屋の中、家族三人でベットに潜り込んだ後妻の方を向いたジルドは、ふと何かに気が付いた。
「おい、おめぇ何持ってんだ?」
ひっそりシルヴィアを起こさない様話しかけてくるジルドに、マゼンダはうっすら優しい笑みを浮かべこう答えた。
「私が書いた家族の日記よ。私とシルヴィア、それと貴方の事を書いた、ね。」
「・・・・・・けっ、俺の事なんて好き好んで日記にする様な女聞いた事ねぇよ。」
はぶてた様にぶっきらぼうに答えたジルドに、マゼンダはくすくす笑う。
「あら、居るじゃない。今貴方の横にね」
「・・・・・・ちっ」
そう答えてジルドは妻から顔を背けた。その後部屋は静寂に包まれ、そこにはうっすら寝息を立てる三人の家族だけが居る。そして三人の仲睦まじい家族を照らす満月の空には、ほうほうと、ひっそり静かに啼く梟の声だけが物静かに響いていた。
完
ご覧いただきありがとうございました。