表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

第04話

 後悔?


 するわけない。

 だって、私にとって英二が全てだから。



*---*



「今年もいい色をしてるなぁ」


 英二はぽつりと呟く。

 桜満開の深夜。

 月明かりに照らされた薄紅色の色彩をほぅ……と見つめる。

 綺麗な月を肴に一升瓶から紙コップに酒をついでぐいっとあおる。


「僕にももらえるかな」


 ハッと顔を上げる。

 さっきまで誰もいなかったはずのそこには、いつからか少年がたっていた。

 5年前、あの日と変わらぬ姿で。

 英二は苦笑してもう一つ紙コップを取り出して少年に手渡す。


「いいのか? 酒は二十歳になってから……だぜ?」

「あいにく君より年上だよ。こんな見てくれだけどね」

「そうなのか? まぁ、あの時から全然年取ってないもんな」

「うん。もっとも、今となっては何年生きたかって意味がないけどね」


 そういって、注がれた酒を一息に飲み干す。


「凄いね」


 周りの景色を見渡してそう言う。

 丘一面の鮮やかな色彩。

 そして、英二の背にしている、一際大きな桜の木。


「いつまで待つの?」

「あ?」

「言ったよね。もう彼女は戻ってこないよ。そりゃ長い年月をかければ歪みはいつかは消えるかも知れないけど。それは途方もない話だよ。その前にキミが寿命で死んじゃうかもね」

「分かっちゃいるけど」


 苦笑して英二。


「約束したからな」




『俺……待ってるから』




「彼女も覚悟してたはずだよ。本来、彼女と君は別のモノなんだから。桜の樹と人間の恋なんて……ね」

「別に無理して待ってる訳じゃないから。何人か他の女ともつき合った事もあった。だけど、頭の片隅にはいつもあいつの事があった。ただ、それだけさ」

「奇跡を望んでいるのかい?」

「別にそんなたいそうなもんじゃない。自然に忘れられるまで位、待っててやるさ」


 そう言って、英二は月と花を見る。その横顔は強がっている風には見えない。

 少年は微かに笑った。英二は眉を潜めた。


「なんだよ?」

「いや、彼女は幸せだったんだろうなって」


 少年は紙コップを地面にそっと置いてきびすを返した。


「じゃ、僕はこれで」


 その場を去ろうとする少年を英二は引き止めた。


「……そういや、結局お前はなんだったんだ? あの時は、聞きそびれたけどさ」

「僕? 僕は単なる代理さ」

「代理?」

「そ、彼女の器を作ったモノのね。対価の引取りとか、前みたいに強引な取立てまがいのことまで。ああ、念の為に言っておくけど、向こうは一応穏便路線だったんだよ。僕がどっちの為にもならないって無理を通しただけで」

「まぁ、……俺的にはどっちでもいいよ」

「意外だね。てっきり恨んでるのかと思ってた」

「どうしてだ?」

「たった一年しか彼女といられなかったじゃないか」

「でも、そのモノか人か知らないけど、彩樹の願いが叶わなかったら俺とは会えなかったんだろ? それに結果的に彩樹も死ななくて済んだ。今ではお前に感謝してるし、その人にも感謝してるって伝えてくれ」


 少年は肩をすくめた。


「わかったよ。伝言も代理の大事な仕事だからね」

「じゃ、頼むな」


 そう言った時には、すでに少年の姿はどこにもなかった。

 ただ、地面に置かれた紙コップだけがそこに少年が居たことを示していた。

 ふぅっと一息ついて英二はまた空の紙コップに酒を注ぐ。

 夜はまだ始まったばかりだ。



*---*



 ああ、たぶん、大丈夫だよ。

 あの人ならどんな結末になっても受け入れられると思うよ。

 彼女は幸せなんだと思うし、幸せになれると思う。

 たとえ先に未来がなかったとしても……。

 だから素直に感謝の言葉を受け取ってもいいと思う。

 じゃ、僕は次の回収にいくよ。



*---*



「え?」


 風が吹いた。地面に積もった花びらが舞い上がる。

 少年が去って少し、もう何杯紙コップに注いだか覚えていない。

 少し飲み過ぎだったかもしれない。


「酔ったか?」

「そうだね。顔真っ赤だよ」


 懐かしくて聞き慣れた声。


「夢か?」

「かもね」


 頬を伝う、一筋の涙。

 幻?

 いや、幻はこんなに暖かくない。

 彼女を抱きしめてそう思う。


「ごめんね、待たせて」

「……どうして」

「また、器を作ってもらったの」

「……でも、歪みは?」


 少しの間だ、沈黙が降りた


「出来るだけ長く保つように器を作ってもらったの。そんなに長くは生

きられないと思うけど」


 笑って、でもその瞳に涙が浮かんでいる。


「さ……いじゅ……」

「そんな顔しないで。いいの、英二の側に居られれば。だから……」


 彩樹は瞳を閉じて顔を寄せてくる。

 彼女を抱く手が震えた。

 もしも、この手を突き放せば彼女は還ってくれるだろうか?

 だが、次の瞬間、英二は彼女と唇を合わせていた。


「幸せにする」


 唇を離して言った。

 英二の頬を次々と涙が濡らしていく。

 その涙を拭ってやりながら彩樹が微笑んで言った。


「うん。幸せにしてね、英二」


 再び風が花びらを舞上げる。

 薄紅色に包まれながら再びキスを交わす。

 ずっと……




 完


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ