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歩く死体

作者: 金巫女

 真夏の夜。

 男友達で一つの部屋に集まってあーだの、こーだの、くだらない話で夜を明かす。スポーツ

や恋なんてまともな事をやらない暇な高校生ならよくやる事だ。

 この四人も昔から良く集まっていた。

 話題は主にゲーム、漫画、学校の事、好きな女の子、脈絡が無い。もしかしたら近所のオバ

ちゃんのウワサ話の方がよっぽど有益かもしれない。それでも集まるのはよっぽど四人の馬が

合うからだろう。


「ねえ、怖い話しようよ」

 そう言い出したのは、山田だ。四人のうちで一番体が小さく、線が細い。

 ここしばらく首の怪我で見合わせていたが、今日、山田の声かけで久しぶりに集まることができた。

 包帯を巻いているが、それ以外はいたって普通でほぼ治っているらしい。

 山田の家は丁度他に誰もおらず、家には四人きりだ。

「止めようぜ。そんなの。気持ち悪い」

 眉をしかめて佐藤が答えた。

 4人の中で一番大柄で、無駄にいつも元気いっぱいなやつだが……。

「へー珍しいな。お前、そういうの信じて無かっただろ」

「……だからだよ。そんな話わざわざしたって仕方ないだろ」

「おーおー、どうした佐藤。さては昨日の特番でも見てトラウマにでもなったのか」

 ニヤニヤ笑いながら佐藤に絡んだのは鈴木だ。

 二番目に背が高く、ひょろい。

 読書のし過ぎで視力を下げてしまいメガネをかけていると本人は主張するが、

ゲームのせいなのが明らかなほどのオタクである。

「……」

「返事が無いって事は肯定かな? 夜トイレにでもいけなくなったのか?」

 佐藤が押し黙っているのを見て、鈴木が調子にのっていく。

 鈴木が佐藤をからかって、佐藤が鈴木を軽く小突く。

 いつものお決まりの流れだから山田と一緒になって笑って見ていた。

「んなわけねーだろ! わかったよ。やればいいんだろ」

 が、そこで佐藤が怒鳴り返した。

 何時どおり笑いながら拳が飛んでくると思ってた鈴木もあっけに取られている。

 誰も喋ることができず、場が静まり返った。

 この集まりでこんな事になるのは珍しい。

 いつものダラダラとした気楽な空気はどこにいったのか。

 せっかくの集まりなのに妙に緊張した空気が流れてしまっている。

 しょうがない。

「よし」

 三人の視線が俺に集まる。

「じゃあ、俺から話すな」

「あ、ああ。三宅(みやけ。頼んだわ」

 ほっとしたように鈴木が答える。

 空気がやわらぐのがわかる。

 もう少しすればまた何時もの空気に戻るはずだ。

「さて、とは言っても俺はそんな体験した事は無くてね」

「おいおい。開口一番それかよ」

「まー、なんとかなるさ。TVで見た話なんだけど……」

 適当に話をする。

 わざわざTVでするような話だ、どうせ有名な話だろう。

 別に語るのも上手くない。

 当然、それ相応の反応で話が終わる。

「ま、こんなもんか。んじゃ、俺の話な」

 鈴木が張り切って話し始める。

 それはネットの掲示板での話。

 妙に気持ち悪い降霊術で、やった人間が掲示板に書き込まずに消えた……なんてこともあっ

たらしい。

 ネットの時点でかなり眉唾ものだったが、生で掲示板を見ていた鈴木にとってはかなり面白

かったようだ。気持ち悪いとは思ったがTVみたいなリアリティが感じられず怖くは無かった。


 残った二人、山田と佐藤を見回す。

 すると、佐藤が空のペットボトルに視線を向けて口を開いた。

「あ、わりーな。飲み物切れたわ。山田、悪いけど買出し行ってくれないか。金出すから」

「いいけど……僕が話聞けないよ」

「しないよ。戻ってきたらする」

「わかった。皆いつものでいいね?」

 全員が頷くと山田は部屋を出て行った。

 いつも山田は率先して買出しに行く。

 変な話だがずっとそうだったので皆もう慣れてしまっている。

 でも、今みたいに露骨に頼むのは珍しい。

「どうした佐藤。いきなり」

 佐藤にしては気を上手くつかったつもりかもしれないが、山田を遠ざけてるのは誰にでもわ

かるぐらい露骨だ。

「この前な。俺見ちゃったんだよ」

 質問には答えず、佐藤が語り始める。

 山田を待たないのか、とは、何か思い出すかのように床のただ一点を見つめる佐藤の姿を見

ると言えなかった。

 鈴木も同じようで黙っている。

「二週間くらい前の事なんだけど、俺死体見ちゃってさ」

「うわ、マジかよ」

 興奮というよりは引き気味に鈴木が声をあげた。

「ああ。血が地面に滴っててさ。首が明後日を向いちゃってるんだよ」

 これが佐藤の不機嫌だった原因か。

 確かにそれだけの事があったならこの手の話はしたがらないのも頷ける。

「でさ、周りに誰も居なくて……警察と迷ったけど一応救急車も呼んだんだ。でも、戻ったら

死体が無かったんだよ。電波悪かったからちょっと離れて電話してた間に」

「え」

「血痕は残ってるけど肝心の死体が無かったんだ。警察にはいたずら扱いされたけど、次の日

に警察に呼ばれたんだ。血痕を調べたんだと思う。でも、いろいろ聞かれたけど俺、結局何に

も知らないから……結局それ以降何も連絡が無いんだ」

「……警察の隠蔽か?」

 鈴木が身を乗り出して、佐藤に問いかける。

 しかし、佐藤は黙って首を振る。

「だったらわざわざ俺を呼び出さないだろ。……それに俺見ちゃったんだよ」

「ん? だから死体を見たんだろ?」

「ああ。動いている死体をな」

「おいおい、幽霊じゃないのかよ」

 今までそういう話をしてきたはずだ。

 ゾンビなんて幽霊より信じられない話だ。

「俺もそう思ったさ。町でのすれ違いだったから気のせいだってな。でもよ、またそいつを見

つけちまったんだ。間違いない、あれは首が捻じ曲がったやつだった。首包帯まいてやがった」

「なんで幽霊じゃないなんて思うんだよ」

「俺、後をつけたんだ。そしたら、そいつ普通に生活してるんだぜ。買い物して、飯食って家

に帰る。……もうあれは幽霊なんかじゃねえよ」

「……他人のそら似だろう。たまたま記憶に強く残ってたからそう思い込んだだけだろ。なあ

鈴木もそう思うだろ」

「あ、ああ。そりゃそうだろ」

 二人で佐藤の話を否定してかかる。

 さすがに友人がそんな話を信じ込んでしまっているのは正さなきゃならない。

「三宅の言うとおり勘違いだって、な、そうだろ。佐藤?」

「……いや、あれは…………ああ、そうだな。そんなわけないよな」

 どう見ても納得しきった顔では無いにしろ佐藤は頷いてくれた。

 家の戸が開く音がした。

 その音を聞いて慌てたように佐藤が喋る。

「この話は無かったことにしてくれ」

「え?」

 聞き返す暇も無く、部屋の扉が開いた。

「ただいまー」

「おう、お疲れ。悪かったな」

 山田にそう言った佐藤の顔はさっきよりも少し明るくなった気がした。

 さっきの話が勘違いと考え直せたからだろうか。

「んじゃ、佐藤の番だね」

「悪い。俺、やっぱり話せるネタ無かったわ」

 佐藤が三人に頭を下げる。

「えー」

 山田が不満そうな声を上げた。

 俺と鈴木は顔を見合わせて首を傾げた。

 その夜佐藤がそのゾンビの話をすることは無かった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 実況から来ました! 突然話される衝撃の事実、ゾっとしました。 最後まであやふやな感じで終わっていくのも、余計に想像力を掻き立てられるため怖さが倍増している気がしました。
[良い点] 4人の登場人物が最初から明らかで、読む自分が5人目として早い段階から楽しく読み進められました。
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