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八天勇者物語  作者: るーびっくきゅーぶ
旅立ち
6/22

選ばれた理由=妄想力。

6.


…いやいやいや。百歩譲ってこの子の話が本当だとして、俺に助けを求めるのはどう考えてもおかしい。彼女の話によれば、彼女が必要としているのはシードに対抗出来る優秀な人材だろう。それは例えば、この世の中に一握り存在するアスリートや、頭のいい天才秀才などといった存在であり、俺のような凡人では筈だ。俺はそこまで体格も良くないし、身長だって平均よりも低い(168cm)。筋力だって無いし、頭も世の天才に比べるべくもない。つまり俺にそんな役目は無理だ。はい論破!!!

…そんなようなことを彼女に言ったら、こう返してきた。



「…本当に、そう思うの?」



「え?」



当たり前だろう。何を言っているのだろうか。俺の言ったことは全て事実である。人生で学んできた紛れもない俺にとっての真理だ。でなければ、このような体たらくで生きている筈は無い。

…俺だって昔はあんな輝かしい奴等に肩を並べて生きていくことを信じて疑わなかった。だけど、もう気が付いたんだ。俺の栄光時代はもう何処かで俺が気がつかないうちに終わった。後は社会人になり、定年を迎え、つまらない人生に幕を閉じる。それが俺、織戸ダイという人間なのだ。彼女が俺に何故、助けを求めているのかは知らんが、そんなのは彼女が俺を過大評価しているだけだ。



「当たり前だろ?何で俺が嘘つかなくちゃあならない?大体俺は何の才能もないし…」



「そんなことは知ってる。」



神様に才能無いって認められちゃったよ。泣きたい。



「ダイ…シードに対抗出来る、良い魂って何だと思う?」



ちなみに、彼女に質問されたのはこれが初めてだ。ちょっと驚いた。

良い魂…か。俺はぱっと思いついたことを言ってみる。



「うーん、シードってのは俺たちを殺そうとしてるんだろ?だったら実力を持った強い魂じゃなきゃダメなんじゃない?」



「…ちょっと正解。でも、それだけじゃ、だめ。強いことも勿論必要だけど、シードは強いだけなら簡単に魂に侵食してくる。…私が求めているのは、今の自分を否定出来る心。」



「どういうことだ?」



「シードは、私たちの魂に取り付いてくる。魂を壊すことによって転生を不可能にすることが目的?だと思う。」



「魂を壊すって?」



「…今、私が言う、魂を壊すっていうのは、魂を堕落させて生命の意志を奪うこと。つまり、生命の目的である自由意志による生の遂行への意欲自体を奪う。」



なるほど。こんな話を聞いたことがある。生きる意志を持たない人間の筋肉の衰弱速度は、健常者よりも遥かに速いらしい。つまり、俺たち生物にとって意志ってのは生きる上で無くてはならないものだ。意欲を失った人間は最悪自殺するしなあ…。あれと似たようなものだろう。



「そのために、シードは生命の魂に干渉する。魂が欲している、こうありたいと思う心を満たすことを行う。つまり、その生命個体の欲する最大幸福を得たという幻覚を見せる。…生命個体の意志が幻覚を見せられてる間は、シードは自由に身体を使役出来る。そうして幻覚を見せ、魂の破壊を行いながら、他の生命に新たな『(シード)』を付与しに行く。」



「つまりシードは増殖出来るってことか?…まるでウィルスみたいだ」



「その認識でいい。シードは、この世界でいう癌細胞のようなもの。魂は最大幸福を自己のものであると誤認し、シードそのものになっていく。これに対抗出来るのは、自分を否定出来る心。シードの最大幸福に惑わされず、今の自分は違う、こうでありたいというあくなき欲求を持ち続けられるもの。ダイは…それを持っているはず。」



…確かに、俺は今の自分は違う、こんなのは自分ではない、漫画やアニメのような主人公になりたい。…って感じていることは否定出来ない。こんな年で恥ずかしくて誰にも言えないが、こんな自分を変えたいと、心の奥底では思っているんだろう。俺は自分の奥底の本心を言い当てられ、確かにこいつは神様なのかもしれない、と思い始めていた。



「…確かに、俺はお前の言うとおりのことを思っていたさ。でも、こんな欲望は人間なら誰でも持ってるものだろう?多かれ少なかれ、誰もが持っている筈だ。それに俺はあくなき欲求とやらを持っていても、それを実現するために努力もせずに人生を送っているぞ?」



「大切なのは、思う気持ち。実行して中途半端に辞めた者よりも、ずっといい。ダイが毎日、夜くらいに、こうなりたい、ああしたいって考えてるのは、管理者である私にも伝わってきてる。」



…ん?何か雲行きが怪しいぞ?



「私は、神様。管理者。生命の思考は何と無くだけど、伝わってきてる。ダイのは、毎日、面白い。」



「うわああああああああ!!!!!!」



つまりあれか!毎日毎日妄想の中で冒険したり、妄想の中で恋愛したり、妄想のなかでピーッ!したりしていたことがこいつに筒抜けになっていて、こいつはそれが面白い!シード対策にも使えるし、こいつに頼むかって感じか!



今まで真面目な話でカッコつけてニヒルに喋っていたのに、最悪だ、ちくしょう!!!!







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