神様?
3.
…おかしい。羊が360匹を超えたのに、まるで気配は消えない。幾ら無想の境地でも限界はある。このままではトイレにすらまともに行けない。さっきのショックでちょっと漏れそうになってるのに、このままじゃ明日、ただでさえ小さい我が家のベランダが世界地図を描いた布団に占拠されることになる。それは困る。
…。それからまた15分ほど経っただろうか。ようやく、さっきから聞こえていたヒタヒタ音が消えた。これはつまり、諦めて冥界もしくは外界に奴が帰ったということなのだろうか?いや。多分そうだろう。もしくは、本当に俺の勘違いだったのかもしれない。大家さんが高性能な襖をサービスで提供してくれた可能性すらないこともない。…いやさすがにないか。
とにかく、足音は消えた。俺の膀胱もそろそろ限界だし、少しばかり布団から顔出して、もし誰も居ないようなら、さっさとトイレを済まして寝よう。明日も朝早いし、単位ヤバイ授業だし。そんなことを考えながらそーっと布団から顔をだすと…
何かがあった。目の前にあったのは、多分、足だ。やばい。めっちゃいる。この野郎、俺を謀りやがった。(多分俺の独り相撲だが)足は、月明かりに照らされて病的なまでに白く見えた。
「ダイ…」
とうとう俺にアプローチをしてきた。つうか名前まで知られてる…まじこええ。声は女だった。若い声で、普段の俺なら好みの声だなーとか思うだろうが、そんなこと今の俺には関係無い。とにかく恐怖を感じた。和製ホラーにいかにもありそうなシチュエーションに、俺はもう卒倒寸前だったのだ。呪怨とか。やばい、マジで漏らしそう。
「……」
俺は布団を脱ぎ、すぐにトイレに駆け込んだ。勿論女の方など見向きもしない。正確には見れなかった、だが。俺は小便をしながら、対策を考える。ていうかやばい。やばすぎる。超こわい…サークル友達にでも助け求めるか?幸いスマートフォンを無意識のうちに持って来てた俺は、電話帳を開いて助けを求める算段をする。ここで俺は圏外になっていることに気がつく。wifiも繋がっていない。何で!あり得ないだろ!
「携帯は…繋がらない…」
絶望感に包まれた。wifi切るくらいなら無線LANルーターの電源切るくらいで出来るだろうが、普通の回線まで完璧に切れている。普段の生活ならあり得ない。大体さっきまで繋がっていたし。
「ダイ…話がある…」
「お、お前何なんだよ!」
「…神様?」
…だめだ。完璧に危ない人だ。まだ普通のヤンデレとかだったらいつフラグたった!?とか現実逃避できるが、自分で自分を神様とか言っちゃう娘は流石に対処出来ない。かといって、このままここにいたら発狂して死んでしまう気がする。そのくらい怖い。
…どうせこのままだと死んでしまうんだ。(多分)一か八か玄関から外に出るしかない。
そう覚悟を決めた俺は、ドアを思い切り押し開けた。
「きゃっ…」
「え?」
思いのほかドア近くに立っていたのか、思い切り突き飛ばしてしまった。その女の子らしい声に俺はビックリしてしまった。幽霊にも実態あるのか?じゃない!
「だ、大丈夫か!?」
泥棒疑惑のある奴に大丈夫もクソもないと思うが、流石にあんな声を出されたら困るので聞いてみる。と、ここで俺は気が付いた。
「……大丈夫」
そう言って顔を上げた少女は、超がつくほど可愛かったのである。