26-2 女にしてやる
「ずいぶん若そうだけど、いつ結婚したんです」
「今のお前よりは若かったね」
「…え?」
夕霧は思わず無防備な顔で父を見た
光が「可愛いね」って目をして笑う。
「ふつうだろ、十四とか」
「……」
そう、なのか?
とりあえず、その頃雁は何もわかっていなかった
キスすら軽い遊びで
この人を侵そうとか、侵せそうとか、夕霧思ったことがない。
そりゃ入内する人とか若いけどね
あれは政治だから
普通に恋するにしては
「少し早いんじゃ…人によってはまだ子どもでしょう」
「うん。だから俺が女にしてやったんだよ」
光がにこっと笑うので、夕霧はぞくりと背筋が凍った。
「親みたいに世話してたんだ、前日まで。でもその日耐えきれなく
なって、ついね。後は毎日。もう一日一回と言わず、毎日だね」
いきなり、なのか?
夕霧は血の気が引くのがわかった
「もっと、段階はないんですか」
恋も歌も
そのためにあるんだろうに
せめて心の準備を整えさせないとダメだろうに
「だって全然気づかないんだもの」
光はおかしそうに笑った。
「すごく可愛かったんだ、心の綺麗な人でね。何の疑いも持ってい
ない。俺のことも、ただの親切な人と思ってたみたいだよ。安心し
きって、隙だらけでね。男女のことなど、何もわかっていなかった」
だから教えてあげたんだけどね、俺が。
光は寂しげに笑った
人間って罪だらけだよね。俺なんて特に罪の権化だ
悲しいけど。
「あの人、よく耐えましたね」
「女だからね。家もないし、耐えるしかない」
「その境遇を利用して?」
「ああ、俺のものにした。おかげで今日まで楽しませてもらってるよ。
後悔はしていない」
「…ひでえ」
夕霧は、やっとそれだけを返した。
深いため息をつく。
「だろ?苦労かけてるんだよ、彼女には」
「だろうな」
「察してくれるか?」
「察するにあまりある」
父に対する見方を変えなきゃいけないなと夕霧は思った。
とんだ極悪人だと思ってたけど、間違ってた。人じゃなかった。
鬼か悪魔か、とにかく人ではない。
こんな男の血をひいてるのかと思うとぞっとする気がした
本当に、おぞましい。
継母の紫さんに、ますます会わす顔がない。
「だからあまりいじめないでやってよ。彼女は俺で手一杯なんだ
から。これ以上悲しませたくないんだ」
「俺に言う前に、まず自分を直せよ」
夕霧は嘆息した。そして、同情した。
女ってこんな大変なのか?
間違っても女には生まれたくない。
というか、その前にこいつを消すべき。
夕霧、決意を新たにする。
「まあ、お前がどうしてもって言うなら、受けてたってもいいぜ?
俺は彼女を守って、絶対抱かせたりしない。心でも体でも、お前
には負けない」
「そういうことじゃないだろ」
夕霧は低く言うと、蒼い瞳で父を見た。
「女を取り合って勝負するようなこと、俺はしたくない。繰り返しちゃ
いけないのはそっちだろ。取られあう女の悲しみ」
「そうそう、わかってんじゃん」
光が満足そうに笑う。
「やっぱ夕くんはしっかりしてるね。夕くんならそう言ってくれると思
ってたよ。俺なんかよりずーっと分別のある、いい子だもんね」
「うるさいわ」
むかつく言い方なので、つい反抗した。
「お前はやっぱり葵の子だね」
光がそっと目を細める。
「俺なんかより、ずっとやさしいもの。相手の心を汲み取ってやれる
いい子だよ」
「あんたが汲み取らなさすぎるだけだろ。もっと思いやれ」
光はことさらに自分を悪く宣伝するようだった。
自分が汚ければ汚いほど、この子が綺麗に育つ気がした。
「ほんと、大きくなったね」
光は、夕霧が生まれてからのことを思った。
「大きくなるほどいい子になってくね、お前は」
「何?脅しの次はすかしかよ」
「だって本当にそう思うんだもの」
「気持わる。急に褒めたりすんなよ」
「てれんなって」
「てれてねえし」
夕霧はつんとすまして出て行った。
秋の風が涼しく吹いている。




