26-1 罪には罪を
二十六.野分
夕霧はひどい野分の吹いた日、初めて紫を見た。
廂の御座にゐ給へる人、ものに紛るべくもあらず、気高く、清らに、
さと匂ふ心地して、春の曙の霞の間より、おもしろき樺桜の咲きみ
だれたるを、見る心地す。*
要するにそういう人だった
とりあえず、美しい
匂うような美しさ
自然のものではないと夕霧は即座に感じとっていた
これは人工だ
親父とともにいて
撫で抱きしめられ、愛されてきた結果が
この美しい輝きを生み出している。
いろいろと最低な男だが、女を磨く腕だけはあるらしいと
夕霧はみとめた。
彼女には悪いけど。
この美はふたりの共同作業と言わねばならない。
「見ただろ」
「見ましたね」
「どう思った?」
「とても綺麗だった。桜の花のように」
夕霧は正直に答えた
隠すことなど何もない。
「これが母を殺した女かと思いました」
「葵は関係ない」
「母の死によって、あの人を迎えたんでしょう?」
「生きてたってそのうち迎えたさ。たまたま時期が重なっただけだ。
葵は関係ない」
父に二度言われて、夕霧はやっと気づいた。
そうか
この人の中で母の存在なんて、たいした意味をもってなかったん
だっけ
つい忘れてたわ。
思わず、ふっと笑う。
そう、母が生きてたってこの人は彼女を迎えただろう
可哀想な人の集まるこの慈悲深い施設には
後にも先にも、母の居場所などない。
「襲いたいか」
「そうしてほしいですか」
光は目を上げて、ちらと夕霧を見た。
息子とは違う色の瞳。
「それもいいかもしれませんね。自分がやられて一番嫌なことをす
るのが復讐なら。目には目を、罪には罪をってのも、一興でしょう」
「罪じゃない」
光は強く否定した
そこだけは。
冷泉だけは守る。
「すみません、言いすぎました」
夕霧も兄のために謝罪した
調子に乗りすぎたと反省する。
「あなたなら許すんですか。自分がやったのと同じことを、俺にされ
たら」
「許さないね。ぜったい潰す。末代まで祟るから」
「こわ」
本気すぎるから思わず苦笑した。
「そんなひどいことを親にしたんですか」
「だって仕方なかったんだもの。父上ならきっと許してくれると思って
た。俺は愛されてたからね」
「そう」
夕霧はあきれて苦笑するしかなかった。
すごい自信だな
自分が神の子だとでも思ってるのか
好きなように振舞って、何をしても許されると?
「幸せな人ですね」
うらやましいとは思わなかった
そんな放縦な特別
人を傷つけて平気な心など、俺はいらない。




