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朱雀と弟  作者:
第三部  母なき子よたりいつたり集ひきてあひ惑はんやしあわせ探し
94/175

25-1 償いなら、いらない

二十五.篝火

「田舎娘に恥をかかせて。可哀想だね」

光は肩をすくめて笑った。

「育ちは隠せないのに。見せ方だけでも工夫してやらなきゃ」

相変わらず単純な人だなと内大臣を批判する。

「俺が親でよかったでしょ」

そういって笑うから

玉鬘も笑顔を作って返した。

そう思いたいのかな

自分が囲っていることの正当性を主張したいのかもしれない。

私も田舎娘だけどな

私も笑われるかしら

玉鬘は恐れながら

少しうらやましくも思った。

たくさんの君達や姫君に囲まれて

内大臣家は単純で、楽しそうに見える。

たとえ笑われたって

楽しく暮せたほうが勝ちじゃないかしら

玉鬘は思った。

親のいる実家

くつろげる家というのが、うらやましい。

光はいつも親切だった

親切すぎるくらい

頼んでもないことまで教えようと絶えず近寄ってくる。

私の中にどのくらい

母の面影を見ているのだろう

寸前まではいくけど

一線は越えない人のようだと玉鬘は感じていた

御琴を枕にて、もろともに、添ひ臥したまへり。*

今もこんなに近くにいるのに

光は彼女の髪を撫でて

何か考えている

消えかけた篝火をつけさせて

ぼんやり揺れる赤い炎を見ながら

つぶやくように言った。

「たえず人をやって、火を灯させなさい。夏の、月のない夜に

光がないのは、薄気味悪く、心細いことだよ」

闇は死を呼び寄せる

光は昔の過ちを繰り返すまいとしていた。

 篝火にたちそふ恋の煙こそ世には絶えせぬほのほなりけれ*

いつまで続くんだろうね、この恋心は。

玉鬘は、母への懺悔かと思った。

 ゆくへなき空に消ちてよ篝火のたよりにたぐふ煙とならば*

消してしまっていいんですよ。母はもう死んだのだから。

償いなら、いらないのに

玉鬘は光が嫌いではなかった

母のことがなければ、付き合っていたかもしれない。

でも母のことがなければ私たちが出会うことはなかった

母のおかげで愛され、守られた私たちは

母のお蔭で決して、結ばれることはない。


「夕くん?柏木もいるの?こっちにおいでよ」

花散里の居所から笛と笙の音が聞こえて

光は息子たちを呼びよせた。

夕霧、柏木と、弟の弁の少将がやってくる。

御簾のうちに、物の音聞きわく人、ものし給ふらんかし*―

「彼女にも聞かせてあげたら」

光は軽く掻きならした琴を柏木にすすめた。

柏木は緊張して弾いた。

美しい音色ね

玉鬘がそっと耳をすます。

見事だった。これが父の血を受け継ぐ弟の音か。

姉弟と思うとなんとなく恋しくて

柏木のことは、目にも耳にもとめているのだが

とうの柏木は懸想に夢中で

本当の恋人にしようと気合を入れて弾いていた。

それが憐れだよなあ

真実を知る夕霧だけは、柏木の献身にそっと嘆息する。

ごめんね、だまして

玉鬘は心から謝りたく思った。

「柏木、やっぱ上手だね」

光はあくまでそしらぬ顔で褒めるから

酷い奴

夕霧が鋭い視線で父を睨む。

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