25-1 償いなら、いらない
二十五.篝火
「田舎娘に恥をかかせて。可哀想だね」
光は肩をすくめて笑った。
「育ちは隠せないのに。見せ方だけでも工夫してやらなきゃ」
相変わらず単純な人だなと内大臣を批判する。
「俺が親でよかったでしょ」
そういって笑うから
玉鬘も笑顔を作って返した。
そう思いたいのかな
自分が囲っていることの正当性を主張したいのかもしれない。
私も田舎娘だけどな
私も笑われるかしら
玉鬘は恐れながら
少しうらやましくも思った。
たくさんの君達や姫君に囲まれて
内大臣家は単純で、楽しそうに見える。
たとえ笑われたって
楽しく暮せたほうが勝ちじゃないかしら
玉鬘は思った。
親のいる実家
くつろげる家というのが、うらやましい。
光はいつも親切だった
親切すぎるくらい
頼んでもないことまで教えようと絶えず近寄ってくる。
私の中にどのくらい
母の面影を見ているのだろう
寸前まではいくけど
一線は越えない人のようだと玉鬘は感じていた
御琴を枕にて、もろともに、添ひ臥したまへり。*
今もこんなに近くにいるのに
光は彼女の髪を撫でて
何か考えている
消えかけた篝火をつけさせて
ぼんやり揺れる赤い炎を見ながら
つぶやくように言った。
「たえず人をやって、火を灯させなさい。夏の、月のない夜に
光がないのは、薄気味悪く、心細いことだよ」
闇は死を呼び寄せる
光は昔の過ちを繰り返すまいとしていた。
篝火にたちそふ恋の煙こそ世には絶えせぬほのほなりけれ*
いつまで続くんだろうね、この恋心は。
玉鬘は、母への懺悔かと思った。
ゆくへなき空に消ちてよ篝火のたよりにたぐふ煙とならば*
消してしまっていいんですよ。母はもう死んだのだから。
償いなら、いらないのに
玉鬘は光が嫌いではなかった
母のことがなければ、付き合っていたかもしれない。
でも母のことがなければ私たちが出会うことはなかった
母のおかげで愛され、守られた私たちは
母のお蔭で決して、結ばれることはない。
「夕くん?柏木もいるの?こっちにおいでよ」
花散里の居所から笛と笙の音が聞こえて
光は息子たちを呼びよせた。
夕霧、柏木と、弟の弁の少将がやってくる。
御簾のうちに、物の音聞きわく人、ものし給ふらんかし*―
「彼女にも聞かせてあげたら」
光は軽く掻きならした琴を柏木にすすめた。
柏木は緊張して弾いた。
美しい音色ね
玉鬘がそっと耳をすます。
見事だった。これが父の血を受け継ぐ弟の音か。
姉弟と思うとなんとなく恋しくて
柏木のことは、目にも耳にもとめているのだが
とうの柏木は懸想に夢中で
本当の恋人にしようと気合を入れて弾いていた。
それが憐れだよなあ
真実を知る夕霧だけは、柏木の献身にそっと嘆息する。
ごめんね、だまして
玉鬘は心から謝りたく思った。
「柏木、やっぱ上手だね」
光はあくまでそしらぬ顔で褒めるから
酷い奴
夕霧が鋭い視線で父を睨む。




