24-3 世界が嫉妬する兄
「あーじゃあもうずっと家において、俺の慰みものにしようかな。
彼女可愛いし。秘密の関係には慣れてるし」
「何言ってんだよ、勝手なことほざくんじゃねえぞ」
「だって妻にするには物足りないんだもの。可愛いけど、やっぱ
紫には劣るし。二位タイくらい?」
「てめえ」
あまりの酔っ払い発言に、蛍は光の胸倉をつかみあげた。
「調子乗ってんじゃねえぞ!何様のつもりだ」
「ああ?俺に意見すんのかコラ」
ふたりとも完全に酔いがまわって、目がどろりとしている。
蛍につかまれた光はその手をばっと払って、逆ににらみ返した。
「俺を誰だと思ってんだ?天下の光源氏だぞ」
「それが何だっつんだ」
「俺に逆らって、この都で生きていけると思ってんのかコラ!」
「何を?上等だ、やれるもんならやってみろやコラァ!!!」
ふたり叫びあって、取っ組み合いの喧嘩になった。
空の酒瓶が倒れる。朱雀あわあわ慌てる。
その背後で
「うるせえんだよ、夜中に」
二人の後頭をぽかぽか殴る音がした。
兄弟がすうっと倒れる。朱雀が慌てて支える。
朱雀が抱きとめたのは蛍だった。
そして光を抱きとめながら
「このバカ親父どもが」
夕霧が極めて冷静に眉を寄せた。
「夕霧くん!お父さんのお迎え?」
「はい、まあ」
朱雀は夕霧の手際よさに感心していた。
「どうやって寝かせたの?」
ふたりはすやすや、完全に眠っている。
「酔っ払いなんてこんなもんですよ」
おっさん兄弟をそれぞれの車に運ばせながら、夕霧は難なく言った。
乱れた酒席を片付けながら、すこし会釈する。
「お久しぶりです。お元気でした?」
「はい、おかげさまで」
少し見ないうちに、また背が伸びて立派になった気がした。
夕霧くんに会えてうれしいな
うれしくて、ついにっこり微笑む。
「そうだ、夕霧くんに文預ってたんだ」
朱雀は思い出して、綺麗な文を取り出した。
いい匂いのする紙。可憐な結び目。
「女ですか?」
「うん。雲井雁さん」
「え?」
夕霧は驚いて朱雀を見返した。
「なんでそれが朱雀さんの所に?」
「柏木くんが来たんだ。それで冷泉さんの所に」
「え?」
「ルートとしては、柏木くん→冷泉さん→俺→夕霧くん、みたいな」
「遠っ!」
夕霧は思わずつっこんだ。
「何すかそれ。もう柏木→俺でいいじゃないすか。馬で駆け抜けるとこ
牛車使うくらい遠いよ。冷泉さんとか山だし。ちょっとした関ですよ」
「うん、まあ、そうなんだけどね」
朱雀が淡く苦笑する。
「ご本人としては、夕霧くん宛ての文を、秘密かつ確実に届ける橋
渡しをしてるとお思いのようだから」
「してないし、むしろ妨げてるし。最近なんか文遅いと思ったらその
せいですか?!もう、素なんですか?あの性格は」
世界が嫉妬する面白さだと思った。
迷惑だけど。俺にはすごいありがた迷惑だけど。
帰る道すがら、文を開いた。
会いたい。
青い紙にひとこと
雁の言葉は、いつも短い。




