5-2 あの子がほしい
「だから養育したいと言ってるでしょう?いくら俺だって、あんな
少女を襲ったりしませんよ。きちんと温かく、大切に世話します。
しつけもしますし。信じてください」
光は必死だった
必死に説得する。
「でもまだ、ほんの子供ですから」
乳母たちは苦笑した。
わかってないな、なぜこうも鈍いんだ
幼いからこそ意味があるんだよ
父親のもとで適当に育ってしまったら、あの可愛らしさは失われる
かもしれないじゃないか。
光はイラついていた
何度も、何度もかよう。
妊娠して以来まったく自分を寄せつけない彼女に
会いたくて会いたくて仕方なかった。
「ご縁があれば、今後機会もありましょう」
ちがう、今じゃなきゃだめなんだよ、俺のこの手で育てなければ。
手遅れになってしまう。
微笑しながら、光は尋常でなかった。
罪…
罪だと?
罪なんかじゃないよ
そうなる宿命だったんだ
子を授かったのが、何よりの証拠じゃないか。
ふたりにとってはじめての子だった
つわりもひどく、何かと苦しいだろう
そばにいて支えて、どんなことも助けたいのに。
なぜ俺は黙ってなくちゃいけないんだろう
だっておかしいだろ?
おなかを撫でて、名前を考えて、しあわせな時間のはずなのに。
なぜ俺たちは苦しまなくちゃいけないんだろう。
ほうぼうに安産の祈祷をさせた
自分もじっと祈って
本当は会いたかった
だって俺の子なんだもの
親父や周りがどう騒ごうが
俺の、子なんだ。
ずっと子ができなければ、死ぬまで関係を続けていけると思った
共犯者といわれてもいい、同じ絆でつながっていられると信じた
だが、妊娠してからの彼女は今までと違ってしまっていた
本当に俺をうとむ態度で
親父の子と偽って、もちろんそうするしかないけど
急速に、俺から離れていく。
だからこそ紫がほしいんだと思った
もう、ひとりじゃ耐えきれなくて
あの人がほしい、俺のそばで俺に頼るあの人がほしかった
それが、新たな罪でも。
紫を手に入れたい
彼女の代りになる、姿かたちのそっくりなあの子を
なんとしても手に入れたい。
紫を得ようと光は深入りした
霰の降る夜、ともに御殿籠って
単衣の少女を撫で抱きしめた
俺の匂いをつけて
このまま持ち帰ってもいい?
愛しくて、髪をそっとかき撫でる。
そうやって紫を狙いつめていたある日。
「兵部卿宮?明日、来るんだな」
左大臣邸にいた光に急報が届いた
兵部卿宮が来る。迎えにくる。
とられると思うと我慢できなかった
父親にだけは、とられたくない。
「明朝行く。車を」
惟光に用意を命じた。
深夜、左大臣邸を出る。
「悪い、すぐ戻るから」
葵は返事をしなかった
はたで見ていても必死で
問うこともはばかられた
光の様子は、尋常でない。




