23-6 偽り馴れたる人
「おや、小説なんて読んでお姫様気分に浸ってるの?こんな嘘八百
のでたらめを」
光は笑って絵物語をけなした。
「まあ、可愛げなお姫様が物思いに沈んでいたら、嘘とわかってても
つい同情したくなるけどね。世の中には、嘘をそれらしい口ぶりで語
る奴もいるものだ」
「あなたのように偽り馴れたる人にはそう思えるかもしれませんけど。
私にはただ、本当のことのように思えますわ」
「ずいぶんけなすねえ」
光はくすりと笑うと
「まあ嘘も悪くないよね。嘘から出た真ってこともある。どんなフィク
ションにも、一面の真実は含まれてるわけだし」
そう言って、玉鬘をいとおしそうに眺めた。
「君が読んだ中に、俺のような愚直な男の話はあった?君のように
つれなく人の気をそらしてばかりの姫君も、きっといなかっただろう」
いざ、たぐひなき物語にして、世に伝へさせむ*―
俺たちも物語を作って、世に広めようよ。
彼が言うとさらにいやらしく聞える台詞を、光は笑ってささやきかけた。
また、いつもの。
玉鬘がそっと防御する。
「そんなことしなくても、こんな珍しいことはすぐにばれて、世間の語り草
になってしまいますわ」
「相変わらずつれないね」
光は女に寄りかかった。甘い息が頬にかかる。
思ひあまり昔のあとを尋ぬれど親にそむける子ぞたぐひなき*
もう俺の手に落ちてしまいなよ。親不幸は仏の道にも背くことでしょう?
玉鬘は顔もあげないので、光はその髪をそっと撫でた。
胸が、どきどきする
たしかにこの人は美男だ。でも、悪い人。
ここで落ちちゃダメだと思う。
古きあとを尋ぬれどげになかりけりこの世にかかる親の心は*
あなたのようなけしからぬ親はどこを探してもいませんよ
と思うけど、言わずに
そんな本音をやわらかーな声で、そっと歌った
あくまで可愛さは失わず。
その防御はなかなか巧かった
平安美人のガードは、しなやかで強い。




