23-5 多情男の代名詞
「ずっと病がちだった妻を、死なせてしまったんです。
何でも許してくれる人だったんですよね。
自分じゃ俺をかまってあげられなくて申し訳ないからって
恋人でも作っておいでって。
俺バカだから、そういうの真に受けて、浮気ばっかして。
それで彼女を死なせてしまったんです」
玉鬘は、悲しそうな蛍の瞳を思い出していた。
最近は、文くらいなら交わすようになっている。
「失ってから気づくなんて、ほんと虫がいいですよね。
でも、彼女以上の人はいなかった。
生きてた時からそう思ってたんです。
ただ一人の、かけがえのない人だって」
「それなのに亡くしてしまった?」
「はい。俺は愚かでした」
「だから探してるんですか?身代りになる人を」
「代りにはなれませんけどね。似た人なら探してます。
顔じゃないですよ、心。
でも心なんて見えないしね。
あんな素敵な人、もう二度といないと思うから。
あんな、海みたいに広い心をもった人は」
「一途だなあ」と玉鬘は苦笑した。
これじゃ無理だ、新しい恋なんて
軽い浮気ならともかく、本気の恋など、とてもできそうにない。
私たち、出会ったタイミングが悪かったかな?
「まだずっと、想ってらっしゃるんですね」
玉鬘はそれを美しいと思った
それなのに浮気する不思議。
光もそうだが、この都では、一途な人ほど浮気する。
「私には無理そうですわ、奥様と立ち並ぶなんてこと。
亡くなられた方は、永遠ですものね」
やさしい墨つきで書くと、そっと返した。
時には悲しみに沈むのも悪くない
特に陽気な人ほど。
そのギャップが、尊く美しく見える。
「じゃあ、浮気相手にならなってくれますか?」
「それならまあ、考えておきますわ」
「やったあ」
文からもうれしさが伝わってくるような素直さだから
玉鬘は思わず苦笑した。
いい人なのね
愚かな人ほど、いい人が多い。
多情な都の色男に少しずつ慣らされて
玉鬘もだんだん戯れた返答ができるようになっていた。
同じ敷地内には、多情男の代名詞である光が
つねに目を光らせて近寄ろうとしてくるし
それを避けるのも楽じゃない。
その迷惑な薫陶を受け、鍛えられたからか
きっちり身を守りつつも、それだけではない
母譲りの「らうたさ」が少しずつ花開き始めている。




