23-4 パーソナルスペース
「蛍は人よりよく見えるね。顔はそんなでもないけど。心が美しい
からかな」
「そうですね。弟さんだそうですけれど、同じくらいに見えますわ。
お美しい方でした」
花散里はおおらかに笑った。
競射の蛍はたしかに美しかった
スポーツマンだからばしばし射抜いて、もちろん一位取るんだけど
陽気そうでも何か物足りない
皆の前では笑ってても、時折ふっと寂しげな表情を見せる。
どうしようかな、本当に婿にしようかな
髭黒さんとか、候補はいろいろいた。
でもいまいち、決め手がない。
やっぱ俺が一番ふさわしいんじゃないかな
俺以上の男がこの世にいないのがいけないんだよ
などと、ぶつぶつ思いつつ
花散里と別の寝床で眠る。
「などて、かく、はなれそめしぞ」と、殿は、苦しがり給ふ。*
花散里はそれを当然と思っていた。
紫さんにも悪いし
気分転換でさえ、私などには手を触れぬ方がよい。
光には、その距離がちょっぴりつらかった。
「離れてて、寂しくない?」
几帳の向こうから、思わずたずねる。
「大丈夫ですわ。離れていても信じておりますから」
花散里は笑って答えた
変な方、私たちはいつも離れているのに。
すこし可愛く感じる。
二人の間に心の隔てはなかった。
ただ、この人が一番妻らしいというか
長年連れ添ってきたあうんの呼吸があって
熟年夫婦のパーソナルスペースみたい
お互いつかず離れずのテリトリーを守って、互いを尊重することが
思いやりある夫婦生活を維持する基礎となっている。
「わかったー」
光は微笑んで、きゅうと眠った。
紫に気使ってくれてるんだ。やさしいなあ。
でも独り寝ってやっぱり寂しい
ありがたいお心遣いだけど。
こういう夜があるから、よけい紫が愛しく思える。




