23-2 夏のたましい
その灯は、ほたるだった。
黄緑の灯を瞬かせながら、たくさんの蛍がぼんやり
玉鬘の周りを飛びちがう。
蛍はそっと目をとめた
美しいな
美しく、残酷な。
「こんなことしたら、皆死んじまうじゃねえか」
小さな声でつぶやくと、そっと嘆息した。
かわいそうに
光の奴、暇だとろくなことしないんだから。
そっと立って、部屋の御簾を押し上げる。
彼は憐れな虫たちを逃がそうとしていた
こんなとこに入れて、今は綺麗でも、朝になったら
皆、死骸になってしまうよ。
それを見るのがつらかった
だから虫たちが来るのを待って、そっと逃がす。
蛍たちは外の風に誘われたのか
玉鬘から離れ、彼のまわりに集まってきた。
いつも陽気なはずの横顔が、少し憂いをおびて、金色に美しい。
光っては消える呼吸に照らされ、彼の瞳もそのたび、金色に瞬いた。
「あなたには、忘れられない人、いますか」
御簾のもとに座り、外を眺めながら
蛍はきくともなくきいた。
「俺にはいるんです。もう三年もたつのに、いまだに忘れられない人」
玉鬘は恐る恐る目をあげた
彼はこちらを覗いてはいなかった
ただ飛び交う蛍たちを身にまとい
彼らの無事を祈りながら
手のひらにのった一匹を、いとしそうに見つめる。
蛍の灯をたましいに見立てた歌が、昔あったな
夏にだけ会いに来てくれる、亡き人のたましい。
「ほんとうに綺麗ですね」
最後の一匹を夜空に送って、彼はにこっと微笑した。
その悲しげな瞳
やさしいほど悲しげな瞳に、玉鬘は息をとめた。




