22-1 いと、たへ難しや!
二十二.胡蝶
「お前なんかに会うためにわざわざ来るわけねえだろ。
早く見せろよ」
いと、たへ難しや*―!
蛍は思わず叫んだ。
「さわぐな」
光がにやにや笑う。
庭のお池に舟を浮かべて、秋好中宮に春を見せる饗応だった。
まあそれもこれも、すべては玉鬘のためだけど。
光が妙齢の娘をかしずいていると聞いて、思惑どおり
飛んで火に入る春の雄
浮ついた君達どもがほいほい寄ってきた。
その筆頭が蛍兵部卿宮
三十代でもまだまだ現役らしい。
「ほーたーるー、なぜ鳴くのー」
「ほたるは鳴かねえし」
「そんなに会いたい?」
「そりゃ会いたいわ」
「じゃ土下座して」
「絶対やだ」
紫の故に心をしめたれば淵に身投げん名やは惜しけき*
光の娘なら、俺とも縁の人だろ?会ってもいいじゃん。
蛍は貴族らしく歌をよんだ。
「そう?じゃ落ちてきて」
淵に身を投げつべしやとこの春は花のあたりを立ちさらで見よ*
一人くらいなら沈めるよ。
光がくすくす笑って庭の池をさす。
「てーめー」
蛍はいらいらしながら、でも帰るのも惜しくて、光邸にお泊りした。
「馬鹿おやじどもが。年甲斐もなく浮かれやがって」
夕霧だけは、春も相変わらずのクールさで眉をひそめる。




