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朱雀と弟  作者:
第三部  母なき子よたりいつたり集ひきてあひ惑はんやしあわせ探し
76/175

20-3 勇者は死んだ

あやしの、人の親や。まづ、人の心励まさむことを、先に思すよ。けしか

らず*

「女の子を引き取るなら、まずその子の幸せを一番に考えてあげなけれ

ば。殿方たちの懸想ぶりを見て楽しもうなんて、けしからぬ御心ですわ」

紫は眉をくもらせた。彼女のほうがずっと正しい。

「だって、男たちがどんなふうに乱れるか見てみたいじゃない。そういう

人に見せない無様な姿をさ。蛍なんてずっと親しいけど、そういうことは

隠してばかりだから、少し暴いてやりたいんだよ」

光がにやにや笑う。

「その子が気の毒ですわ。そんな、魚を釣る餌みたいに扱われては」

「気の毒にはさせないよ。この上なく綺麗に飾って、最上の餌に仕立て

てみせる。それでいい男が寄ってくれば、彼女にとっても幸運だろ」

「そうかしら」

紫はまだいぶかしげである。

「君もそんなふうにかしずかれたかった?そうすればよかったかな。君な

らたいそういい男が釣れそうだしね。あまり軽率に嫁にしてしまったかな」

いと、無心に、しなしてしわざぞかし*―

光が笑うから、紫は頬をそめてうつむいた。

そのさまも可愛くて、きゅっと抱きよせる。

「まあ、誰が釣れようと許さないんだけどね。君は俺だけのものだから」

六條に移って暇になった光は、毎日紫と過ごした。

一日中好きなことをして、三六五日暮らす。

南の島みたい。毎日がバカンス。

夕顔を抱いたときも、この幸せを願っていたなと光は思った。

あんな不気味な院でも、人さえいなければふたりの園を作れると思って

いた。

あんな所でも、ふたりですごせば楽園だったよね。

紫を抱きながら、昔の人のことをふと思った。

そういう悲しい理性が、この男にはある。


「夕霧と申します。以後お見知りおきを」

夕霧は、御簾を隔てた座で静かに礼をした。

玉鬘の気配は遠い。

気の毒な人のようだと察した

土地の豪族に無理やり妻にされそうだったところを

命からがら逃げてきたらしい。

そんな苦労人には、ここも一時の安息所と思えるかもしれないが。

夕霧がふっと息をつく。

「豊後の介とか言う人が勇者だったそうですね。すべてを捨て、あなた

を守って、都までお連れしたとか」

「はい。あの者も旦那様に召抱えられ、身に余る光栄と感謝しております」

「そうですか」

その勇者は死んだなと思った。

姫を守ってお連れしたここが、果して安全かどうか。

あの人のことだ、すぐ尻尾を出すにきまっている。

「何かあればおっしゃってください。できるだけ力になります」

澄んだ眼差しでそれだけ言うと、座を去った。

夕霧十四歳、父を疑っている。

本当の姉でないことはすぐ察しがついた

あの人は、実子を手もとで可愛がることをしない。

あの人が可愛がるのは、惚れた女だけである。

彼女が危険だと思った

狼の家に迷いこんだ赤ずきんを、無事救い出せるだろうか。

あるいは、あまり美形な狼だから

赤ずきんも食べられることを望むだろうか。

歩きながら、夕霧少し考えている。

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