20-1 養女好き本能
二十.玉鬘
光は六條に大きな邸を建てた。
春夏秋冬、それぞれに見立てた対を作らせ
紫、花散里、秋好中宮、明石の居所とする。
政務をゆずり、でも収入は入るし
悠々自適、楽隠居の形だった。
三十なかばで女をはべらせ、セレブらしく優雅に暮す。
誰もがうらやむ幸せに見えた
そう、これから数年は
後で振り返っても本当に充実したしあわせな時間だった
もちろん当の本人にそんな自覚はないが。
「おかえり。今度の休暇はやけに長かったね。実家で男と遊んで
でもいたの?」
光は微笑みながらきいた。
右近が少し恥ずかしそうにする。
光は紫とそろってくつろいでいた。
やわらかな灯りの中に
可憐な紫が、光の胸に包まれるように寄り添っているさまは
美しかった
たとえようもなく美しかった。
「そんなことじゃありませんよ。ずっと探していた気の毒な方を見
つけたのです」
「ん、誰?」
右近は詳しくは言わなかった。
夕顔が死んで十八年
あの時号泣してくれた光は、十七歳だったろうか。
お互い生き長らえて
いつの間にか倍以上の時が経っている。
「見つけたって、誰を?」
「夕顔様のお嬢様です」
「そう…」
光は目を開いて、すこし息をのんだ。
「よく会えたね。今までいったいどこに?」
「さあ、いろいろありましたようで、詳しくは」
右近はありのままには言いづらくて、すこし言葉を濁した。
「昔の侍従などが供におりまして、物語して帰りました」
「そう」
光は胸がいっぱいになって、大きく息を吐いた。
気の毒なことをして、亡くしてしまった人
その愛しい人のことが、ぎゅっと胸をよぎる。
ふたりはしばらく沈黙した。
右近も間近で見た夕顔の頓死を、ずっと忘れられずにいる。
「私もう寝ますわ。お邪魔なようだから」
紫は、衣を頭から引っかぶって耳をふさいだ。
目をつぶってすうすう、わざとらしい寝息を立てる。
光はくすりと笑った。
「ありがとう」
気を使ってくれてるのかな
その髪をなでなでしながら、もう少し追求する。
「顔は似てるの?夕顔に」
「はい。お母様よりお美しいのではないかと」
「へえ、どのくらい?紫くらい?」
「いえ、それほどでは」
「そんな謙遜しちゃって。俺に似てたらやりやすいけどね。まいいや、
とりあえずここに迎えよう」
光は即座に決めた。
本当の父親は内大臣だけど
あちらは実子もたくさんいるし、今さら混じり入るのも難しいだろう
俺は女の子少なくて寂しいし
久々のかしづきぐさ
それも可愛い子ときいては、光の養女好き本能が黙ってはいない。
「田舎で育ったの?大丈夫かな」
光は一応文を送った。その返答で人柄を探る。
あまり野暮な子ではね。見てて悲しいから。
「私など、数ならぬ身ですから…」
控えめに返す文が悪くない印象だった。
これなら、まあいいかな。
安心して玉鬘の居場所を作る。




