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朱雀と弟  作者:
第三部  母なき子よたりいつたり集ひきてあひ惑はんやしあわせ探し
72/175

19-7 顔など飾りです

「顔など飾りです。親父にはそれがわからないんですよ」

夕霧が熱く語るから

そんなフォローしなきゃいけないほど顔酷いかな?私…

花散里は逆に落ち込みそうだった。

でも気色には出さずに

「ありがとう。でも大事な飾りですよね、顔は」

苦笑して返した。

「たまに見るならともかく、明け暮れそばにおいて馴れ睦ぶには、

やはり美しい方のほうがいいですよ」

微笑んでアドバイスすると

「なるほど」

夕霧は否定せず、神妙にきいた。

その素直さが可愛らしい。

「紫さまも、それはお美しい方ですものね。ご寵愛がやまないのも

うなずけますわ」

「俺会ったことないんです、一度も。多分一生会わないんじゃないかな」

「まあ、同じお邸ですのに?」

「同じ邸だからじゃないですか?親父って単純だから」

夕霧は苦笑して、軽く息をついた。

誰かさんみたいに、一目ぼれして手を出すとでも思ってるのかね

アホらしい。

自分の犯したあやまちを繰り返さすまいという、涙ぐましい配慮。

でも、そういうすべてが無駄なんだよなと思った。

親父がつとめて俺を紫さんに近づけまいとしなくても

俺は別に興味ないし

あんたみたいに綺麗だからってすぐ惚れたりしないんだよ

母に似てるとかいう理由で好きにもならないし。

母の面影など、覚えているはずもない。

「きっと、お父様が警戒してしまうほど、ご立派だってことですわ。

もう一人前の男として見てらっしゃるのね」

花散里はそう言って微笑んだ。

「ちいさんフォロー上手いですね。さすが癒し系」

夕霧がちょっと感心する。

「顔のよくない女の、これも処世術のひとつですわ」

彼女は寂しげに笑うと、遠くを見やった。

「私など、本当なら田舎に生まれて、田畑を耕し、魚でもとって

暮してたんじゃないかしら。ひょんな幸運から貴族に生まれて、

こんな厚遇を受けて。いつも身に余る光栄と感謝しています」

そう言うと、扇で顔を隠した。

よくない顔をあまり見せるのも悪いという、彼女の配慮らしい。

「そんなことないですよ。ちいさんセンスいいから、素敵な衣装家に

なってたんじゃないかな」

夕霧は花散里の隣に座ると、前を見て言った。

お世辞ではなかった。花散里のセンスのよさは際立っている。

この邸での一番はつねに紫だ。

それを理解した上でのチョイス

第一夫人を引き立てつつ、隣に並んで見劣りしない繊細な色使い。

その、無理に目立とうとしない品のよさが美しく思えた。

補佐に徹する存在感

まるで彼女自身を表現してるかのようだ。

「祖母ちゃんが死んだ後の後見に、と言ってたそうですね、父は」

「はい」

「その必要はないですよ」

夕霧はぽんと立ち上がると、にっと笑ってみせた。

「俺があなたを後見します。父が死のうと捨てようと、俺はあなたを

見捨てない。母のように養いますよ。あなたが俺にして下さる、ご

親切のお返しに」

そう言って、たたたっと駆けていってしまった。

可愛い方ね…

花散里はすこし涙ぐみそうになりながら、末頼もしい背を見送った。

あの方に養われて、それだけでも幸せなのに、その上あんな可愛い

方のお世話までさせていただけるなんて。私はなんと幸福なのだろう。

あの子を産んで、すぐお亡くなりになった葵さんのことを思った。

あんな可愛い子をおいて、どんなに無念でもったいなく感じていらっ

しゃることかしら。

花散里は夕霧について、お里での好みなどもうかがっていた。

紫を女主人とするこの邸では、葵の話題になど、一切触れられる

ことはない。

葵が死んでこその、紫の御世なのだ

それは花散里もよくわかっている。

だからこそつらいだろうなと思った

唯一の血縁者である父親すら葵を思い出さないこの家に

夕霧の居場所を見いだすのは難しい。

だからこそ作らなきゃとも思った

目立たないがそれとなく、お母様やお里を懐かしめるような

そんなお世話を目指したいと、花散里は思う。

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