表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
朱雀と弟  作者:
第三部  母なき子よたりいつたり集ひきてあひ惑はんやしあわせ探し
69/175

19-4 葵の子

「ちょっと、気安く殴らないでくださいよ。親父にも殴られたことないのに」

「お前の親父はお前に興味なさすぎなんだよ。お前は葵の子なんだから、

俺の甥にあたるんだぜ?少しはかまってやんなきゃ可哀想じゃねえか」

「いいですよ、そんな気づかい」

夕霧は迷惑そうに眉をしかめた。

「勉強もいいが、たまには顔出せよ。光なんてこんなふうに遊んでばっか

だったんだから。まあ今も変らんがな。面倒な政務は全部俺に押しつけ

やがって。おかげでこっちは暇がないよ」

言いながら、内大臣けっこう嬉しそうである。

「ほんと、あんなに女に一生懸命な奴も珍しいよな。地位より女、名誉よ

り女。今度は何やら、六條にでかい邸を建てるらしいじゃねえか。女だら

けの極楽御殿をさ」

「あれはあの人の持病ですから」

夕霧は冷たく言い放った。

極楽だか地獄だか、わかったもんじゃない。

「まあ、今日は楽しんでいけよ」

そそのかされて、美しく笛を吹いた。

吹きながら、几帳に映る影を見つめる。

その向こうの少女。

めんどうな恋はしたくないが、どうしたもんかな

祖母のもとで、ともに育った人だった。

二つ上のいとこ。

かわいいのはかわいいが。

夕霧、まだすこし考えている。


「かしこがり給へど、人の親よ」*

その噂話に、内大臣は足を止めた。

自分のことを言っている。

夕霧と、雲井雁が…?

さっと青くなった。

それから血が上って、かっと赤くなる。

なんて手の早い奴だ。親に似て。

いらいらして邸を出た。

あの子は春宮にやろうと思っていたんだぞ。

自分の娘でなく梅壺が后に選ばれて、ただでさえ悔しいのに

光の奴、またしても…

気が立って眠れなかった。

この人は昔から、光に負けたくないという気が強い。

それで自ら挑んで、いつも負けてしまう。

だが、我が子が后に立てなかったことは、本当に悔しかった。

一番先に入内させた女御だぞ?帝の覚えもめでたい。

年も近くて、一番愛されてたはずなのに。

弘徽殿女御と呼ばれたが、何か先代弘徽殿の不遇と重ならないで

もなかった。

だからあの子にリベンジをかけてたのに…

小さい頃から祖母の家で一緒に育ったとはいえ、いとこ同士の結婚

なんて、ありふれすぎていると思った。

祖母さん気づいてなかったのか?

それとも気づいてはいたが、可愛い孫同士のことと思って放置してた

のか。

俺の娘を勝手に縁づかせやがって。

内大臣はいらいらした。

腹が立つとおさえきれず、一言いわずにおれない。


「どういうことです?あの二人はどこまでいってるんですか。あなたに

任せれば安心だろうと思っていた俺が馬鹿だった。夕霧のためにも

よくないでしょう?こんな身近な縁組は。光もどう思うか。俺に一言相

談してくれれば、対処のしようもあったのに」

をさなき人々の心にまかせて、御覧じ放ちけるを、心憂く思ひ給ふる。*

えっ、私?

祖母の大宮は驚いて、目をまるくした。

「私だって初めてききましたよ、そんなことは。誰が言ったんです。本

当なの?」

「本当も何も、女房たちまで噂しあって笑ってますよ。腹の立つ」

内大臣は怒ったまま行ってしまった。

今度は娘の部屋に行って、女房たちを責める。

「お前たちも知らなかったのか?誰か手引したんじゃあるまいな」

「そんな、滅相もない。他家の男なら寄せ付けたりもしませんが、ずっ

と一緒にお育ちになったんですもの」

「大宮さまも可愛がってらっしゃるし、わざとお二人を離すようなことは

できませんわ」

「うわついた男なら警戒もしますけど、夕霧様はとてもまじめですから。

夢にも思いませんでした」

何が夢にもだ。それが奴らの手だろうが。

内大臣思うが、今さらどうしようもない。

「とにかく、このことはしばらく黙っておけ。あの子はうちに連れて行く」

そういって、ぷいと立ってしまった。

娘も子供っぽく、何を言っても理解しなさそうなのが、重ねて悲しい。

「どうしたらいいんだ、お前のためには…」

嘆息しながら出て行った。

一方祖母の大宮も、自分のせいにされて悔しく思っていた。

思いつつ

あの子も、もうそんな年頃になったのねえ。

夕霧を可愛く思う。

葵が死んで十余年、ずっと夕霧だけを形見に愛してきた祖母だった。

葵のぶんまで、可愛さは身にしみている。

何よ、えらそうなもののいい方をして

もともとそれほど気にかけていなかった娘じゃないの。

それを私があそこまでにしてやったから、春宮へあげてもいいなどと

思い始めたんじゃないか。

春宮をのぞけば、夕霧より優れた男などいませんよ

姿かたちも、親にもまして美しい。

だってあの子は、葵の子なんですから。

そう思って、内心では息子を非難していた。

夕霧の知らぬところで、騒ぎが大きくなっている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ