19-2 藍より青く
「六位というのは、あまりにも可哀想じゃありませんか」
祖母宮が切なげに言うので
「俺がずっと生きていられたらいいんですけど。権勢が移って苦しい
立場に立った時、本人が馬鹿だと侮られますから。自分の力で運命
を切り開いてゆける子にしたいので」
猶、才を本としてこそ、大和魂の、世に用いらるる方も、強う侍らめ。*
光はそう言って笑った。
「でもあの子も、幼心につらいと思っているようですよ」
おやおや、ばあさん甘やかすんだから。
光は苦笑すると
「学問などして、すこし物の心も得侍らば、その恨みは、おのづから、
解け侍りなん」*
そう言って、とりあわなかった。
かくして夕霧は、二條院の隅の日当たり悪い部屋へおしこめられ、
家庭教師までつけられて、じっと受験勉強することになった。
「元服まで放置しといて急に親がるんだから。仕方ない人だな」
夕霧はクールに受け止めた。
俺をここまでにしてくれたのは、母方の祖父さん祖母さんだぜ
それを感謝もせず、自分は女にうつつをぬかしてたくせに、えらそうに。
自分勝手は相変わらずだな。
そういうことを、眉ひとつ動かさず思える子である。
まあ、祖母ちゃんちじゃ集中できなかったのはたしかだし
ここで本でも読むか。
夕霧野心家だが、ただ権力を欲する男ではなかった。
親父を倒したい。
子供心にこの一念だけが、強い柱をなしている。
権力も加階も、あくまでその手段にすぎなかった。
「いかで、さるべき文ども、疾く読みはてて、まじらひもし、世にも出でた
たん」*
夕霧まじめに本を読む。
しかしカビ臭いなこの部屋。換気悪くね?
本も俺以外に読んだ形跡ないし。家庭教師はじじいだし。
このままじゃ、髭はえる前に白髪はえるわ。
書庫はきらいじゃないが、さすがに住みにくいので、はよ読んでしまおう
とさらさら半年で終らせた。
そして寮試。入学。
夕霧さすがに光の子だけあって、すごい秀才ぶりをいかんなく発揮した。
ん?こんなの序の口だよ。
というか、座敷牢からやっと出られた…
褒められても得意がらない冷め顔が、気高く美しい。
はかなき親に、賢き子の、勝る例は、いと難きことになん侍れば*―
この一言が、彼の耳にひっかかっていた。
たしかにな
のほほんと生きてたら、親は超えられない。
ならあんたの設けた障害ことごとく打ち破ってやるよ
俺は、あんたより出でて、あんたを超える。
入学の儀式は盛大だった。
夕霧は従者たちにかしずかれ、美しく入門した。
みすぼらしい先輩どもがやんやとののしる。夕霧無視する。
まったく臆せず問題を解いた。
どこへ出されても、夕霧の目は蒼く澄んで、前を見ていた。




