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朱雀と弟  作者:
第三部  母なき子よたりいつたり集ひきてあひ惑はんやしあわせ探し
67/175

19-2 藍より青く

「六位というのは、あまりにも可哀想じゃありませんか」

祖母宮が切なげに言うので

「俺がずっと生きていられたらいいんですけど。権勢が移って苦しい

立場に立った時、本人が馬鹿だと侮られますから。自分の力で運命

を切り開いてゆける子にしたいので」

猶、才を本としてこそ、大和魂の、世に用いらるる方も、強う侍らめ。*

光はそう言って笑った。

「でもあの子も、幼心につらいと思っているようですよ」

おやおや、ばあさん甘やかすんだから。

光は苦笑すると

「学問などして、すこし物の心も得侍らば、その恨みは、おのづから、

解け侍りなん」*

そう言って、とりあわなかった。


かくして夕霧は、二條院の隅の日当たり悪い部屋へおしこめられ、

家庭教師までつけられて、じっと受験勉強することになった。

「元服まで放置しといて急に親がるんだから。仕方ない人だな」

夕霧はクールに受け止めた。

俺をここまでにしてくれたのは、母方の祖父さん祖母さんだぜ

それを感謝もせず、自分は女にうつつをぬかしてたくせに、えらそうに。

自分勝手は相変わらずだな。

そういうことを、眉ひとつ動かさず思える子である。

まあ、祖母ちゃんちじゃ集中できなかったのはたしかだし

ここで本でも読むか。

夕霧野心家だが、ただ権力を欲する男ではなかった。

親父を倒したい。

子供心にこの一念だけが、強い柱をなしている。

権力も加階も、あくまでその手段にすぎなかった。

「いかで、さるべき文ども、疾く読みはてて、まじらひもし、世にも出でた

たん」*

夕霧まじめに本を読む。

しかしカビ臭いなこの部屋。換気悪くね?

本も俺以外に読んだ形跡ないし。家庭教師はじじいだし。

このままじゃ、髭はえる前に白髪はえるわ。

書庫はきらいじゃないが、さすがに住みにくいので、はよ読んでしまおう

とさらさら半年で終らせた。

そして寮試。入学。

夕霧さすがに光の子だけあって、すごい秀才ぶりをいかんなく発揮した。

ん?こんなの序の口だよ。

というか、座敷牢からやっと出られた…

褒められても得意がらない冷め顔が、気高く美しい。

はかなき親に、賢き子の、勝る例は、いと難きことになん侍れば*―

この一言が、彼の耳にひっかかっていた。

たしかにな

のほほんと生きてたら、親は超えられない。

ならあんたの設けた障害ことごとく打ち破ってやるよ

俺は、あんたより出でて、あんたを超える。

入学の儀式は盛大だった。

夕霧は従者たちにかしずかれ、美しく入門した。

みすぼらしい先輩どもがやんやとののしる。夕霧無視する。

まったく臆せず問題を解いた。

どこへ出されても、夕霧の目は蒼く澄んで、前を見ていた。

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