表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
朱雀と弟  作者:
第三部  母なき子よたりいつたり集ひきてあひ惑はんやしあわせ探し
66/175

19-1 中の劣り

十九.乙女

「はいはい、どうせ俺は中の劣り*ですよ。ところで中って何ですか?

中間子で一番ダメってこと?それとも三人の中で一番劣るって意味?

まあ同じことだけど」

夕霧という人は、父親以上に大人びていた。

しかもクールで、現実的に物を見る。

「まあそう卑下すんなって。俺お前が一番伸びそうに思うよ」

「万年緑の蛍さんに言われてもねえ」

「なんだよ、緑をばかにすんな」

「だって六位ですよ、六位。殿上できないんですよ?ガキの頃より

下がるってどういうことですか」

「子を思う親のまごころだよ、つよいこにしたいっていうさ」

「ああ、可愛い子には監禁させろってやつ?」

「何お前、監禁とかされてんの?」

「されてますよ、毎日本ばっか読んで。家帰れるの月三回ですよ?

本当ありえないんだけど。どんだけ虐待すれば気がすむんだよ」

夕霧はため息をついた。

光に似て美しい少年だが、冴えた目元は母親似らしい。

目が悪いのか、人を見る時、その綺麗な眉を少し寄せる癖があった。

十二にして眉間に皺よる秀才少年なわけである。

「きっと、あまり上からはじめるとすぐ俺が追いつくと思って警戒してん

ですよ、心のせまい」

「光はもう誰かが追いつける位置じゃねえだろ。それよりお前

大方の人がらまめやかに、あだめきたる所なくおはすれば*―

ってなってるよ、公式設定」

蛍は冷泉帝からもらった古の台本を紐解いて見せた。

譲位資料を探しているとき発掘なさったらしい。

「そんなの見せかけですよ、見せかけ」

夕霧が肩をすくめるところへ

「こんにちは。夕くんいますか」

発見者の帝がこっそり現れた。

「冷泉さん!お久しぶりです。何来ちゃってんすか」

「夕くんいるっていうので、つい」

「超おしのびじゃないですか」

「えへへ」

冷泉は微笑むと、夕霧の横に座った。

「夕くん、私のことは兄貴でいいよ」

「そんな、帝のこと兄貴だなんて呼べるわけないでしょ」

「光呼んでたよね、すー兄」

「呼んでたね」

「親父と一緒にしないでくださいよ。大体何すか夕くんて。公式ですか」

「公式だよ、俺が決めたんだから」

「やっぱ蛍さんか。勝手に決めないでくださいよ」

「もう手遅れだね。皆に浸透してるし」

「自分で広めたんでしょ。もう、だめですよ、そんな呼び方しちゃ。親父

に一発でばれるじゃないですか。あくまでも、あなたと私は主従なんで

すから。気をつけてもらわないと」

「隠したほうがいいの?」

「そりゃそうですよ。いいですか、俺が親父の秘密を知ってるってことは

親父には秘密なんですから」

「……ん?」

冷泉は、それを理解するのに二秒ほどかかった。

聡明だが、ゆったりした人らしい。

「そうなんだ。でもどうして?」

「少しでも出し抜きたいじゃないですか。あの親父に立ち向かうんだ、

ひとつでも多く武器を持ってないと」

父上本当にご存知ないのかなと思いつつ、冷泉は微笑んで聞いていた。

弟の頑張る姿が、けなげで可愛い。

「もう、あなたといると調子狂うんですよね。親父にそっくりな顔してるのに、

性格全然違うから」

「そう?案外同じかもしれないよ」

「ええっ、そんな裏があるんですか?やめてくださいよ、その微笑みで残酷

とか、そういうのいらないですから。親父ひとりで十分ですから」

「お前ほんと元気だね。マジで光を倒そうとか思ってるの、都じゅうでお前

だけだと思うよ」

「日ノ本じゅうでも俺だけでしょ。大変なのはわかってます。でもあの人も

寄る年波には勝てないんだ、いつか老いくづほれて俺に従う日がきますよ。

あなたたちも同じです。俺は将来太政大臣になる男ですからね。俺が右

と言ったら、右へならえする世がくるんです。その時のために、今からせい

ぜい媚を売っとくことですね」

そんな感じでぴしゃりぴしゃりと言うのだが、不思議と毒気がなかった。

やんちゃな弟という感じが、なんともほほえましい。

「あ、もうこんな時間だ。そろそろ帰らなきゃ…」

「私も一緒に行くよ」

「ええっ?帝なんか連れて歩けるわけないでしょ、六位の俺が。目立つ

じゃないですか」

「じゃあ、服取り替える?」

「いやダメですよ、帝に浅葱なんか着せられないし、俺だって紫など着れ

ません。大丈夫、俺が着ますから。俺浅葱似合ってますから」

そんな調子で立ち上がると、朱雀があっと小さく声をあげた。

「夕霧くん、左利きなの?」

「そうですよ、もちろん右でも書けますけど。公式の時とか、右使わないと

年寄りたちうるさくて。でも普段は左。だってほら、手も汚れないし、便利

でしょ」

そう言って見せるので

お父さんと同じこと言うんだ…

と思って、朱雀はじんときてしまった。

「じゃ、また。くれぐれも秘密は守ってくださいよ、親父についての最新情報

があったら逐一ください。あと蛍さん、もすこし自重して」

「なんだよ夕くん、もっとかまってほしいのか?」

「ちがうわ」

夕霧は悪態をついて、兄帝と出て行った。

「いやーあいつほんといいね、なんであんな面白いの?葵さんの遺伝子

かな。葵さん偉大だなー、すげえ忘れ形見残していった」

蛍が笑うので、朱雀もつい微笑した。

笑いながら

夕くんも左利きなのか…

そんな些細な共通点に、心うたれている。

夕霧の年齢で、葵と別れた年数のわかる朱雀だった。

あの子のしあわせを見守って。

その約束どおり、朱雀はできるかぎり夕霧を見つけて

温かく見守っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ