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朱雀と弟  作者:
第二部  地獄へもとぶらひゆかん君が闇てらすばかりの光となりて
63/175

17-5 犯人想像

やをらづつ、ひき入り給ひぬる気色なれば*―

「そう、そうやってじりじり後ろに引かれたもんだから、俺もとうとう

言い寄りそこねたよ」

「いや、そこまで伝われば十分かと」

朱雀は思わず苦笑した。

若いなあ

女性にときめく心がまだ残っているなんて。

感心して苦笑する。

「いや、もちろん本気じゃないんだよ?帝の奥さんなんだから、いくら

俺だって手出さないよ。ただとても美人だときいたからさ、やっぱ気

になって」

そう言って笑う光は輝いていた。

何かいいことあったみたい。

「冷泉さんは、お元気?」

「うん、おかげさまで」

光は朱雀を見ると

「実はね」

すべてをそっと話してしまった。

よほどうれしかったらしい。

光は、信じた人に何もかも話してしまう癖がある。


「そう…よかったね、ほんとに」

朱雀は感動した。

十二年間黙っていた心を思うと、涙が出そうだった。

「死ぬまで隠し通すつもりだったから、こんなこと一生ないと思ってた

から、なんかすごくうれしくて。俺も久々に泣けた」

光はにこっと笑った。

「あとは藤壺さんだな。亡くなった方が許してくれるかどうか」

そう言って、目を伏せる。

つひに、心も解けず、むすぼほれてやみぬる事、二つなん侍る。*

六條さんはまだ、許してくれるかもしれなかった

遺言守ってまじめに後見してるわけだし

でも彼女はどうだろう

あの子にばれたこと、天上で知ってしまっただろうな。

「ねえ、兄貴が言ったの?あの子に」

光は不思議そうにきいた。

「命婦にきいても違うと言うしさ、彼女も絶対秘密にしてたというんだ。

あとは兄貴くらいしかいないだろ」

「えっ、俺?」

朱雀はびっくりすると

「言ってない、と、思うけどなあ」

自信なさげにつぶやいた。

聡明な方だから、何かの折にお気づきになったのかもしれないけど。

一応、そうはっきりとはお伝えしてないように思う。

「そか…不思議だなあ、親父かな」

光は怒っているわけではなかった

むしろ感謝したいように、犯人を想像する。

「こどもっていいね、かわいくて」

光はうれしそうにつぶやいた。

「まあ約一名、可愛くないのがいるけど」

「そんなことないよ、皆かわいいよ」

朱雀が慌ててフォローする。

「俺は女でも慰めてくるわ。子守は苦手だから」

そう言うと明るく帰っていった。

紫さんのもとか、明石さんちへ行くのか、ちょっとわからない。

忙しいなあ

亡くなった人を想うのかもしれない。

朱雀は夕霧を思い出していた。

隠居して公の場にほとんど出ないから、あまり会えない。

でも物は贈っていた。

もちろん光のほうがお金持ちで、何もかもそろっているのだけど。

頼りない伯父だが、実子より気になるのだから、我ながら苦笑する。

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