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朱雀と弟  作者:
第二部  地獄へもとぶらひゆかん君が闇てらすばかりの光となりて
61/175

17-3 親の御世より

よろづの事、親の御世より始まるにこそ侍るなれ。*

冷泉帝は、はっとした。

すぐには整理できない。

心に知らで、過ぎなましかば。後の世までの咎め、あるべかりけることを。*

「話してくれて、ありがとう」

やっとそれだけを言った。

老いた僧都が帰っていく。

息がつまるとはこういうことかと思った

何とも、言葉にできない。

ただ、胸が痛かった

故院の御ためも後めたく、おとどの、かく、ただ人にて世に仕へ給ふも、

あはれにかたじけなかりけること*―

母上はどうして隠してらっしゃったのだろうと思った

こんな大切なことなのに。

冷泉帝は十四だった

年よりはずっと大人びて見える。

亡くなった院のために申し訳なく思った

同時に、源氏の内大臣のことも。

今まで臣下として接していたことを、つらく、もったいなく思った。


昼になっても帝が起きてこないというので、光は参内した。

やはり、似てる…

冷泉帝は光の顔を見て、涙がぽろぽろこぼれた。

この方だったんだ

この方が、本当の。

でもそこから先が言えそうになかった

母が止めているようで、のどにつかえて、言葉にならない。

「朱雀さんは、どうしてあんなに早く位を退かれたのでしょうね。故院

はお亡くなりになる直前まで、世をお治めになられましたのに」

そっと、そんな話をした。

「兄は面倒くさがりな人ですから。すこし体も弱いし。これ以上女たち

に責められるのがつらいんだって言ってましたよ。夜ぐっすり寝たい

からって」

そんなことを言って光は笑った。

あながち冗談でもなかった

朱雀はつねに、同衾女性より多くの睡眠を必要とする。

冷泉はやわらかに笑うと、すこし沈黙した。

たぶん、違う

本当は私のせいなんだ。

この方が後見として、父として、私を帝にしようとして下さった。

だからこんなに早く私の世がきたんだ。

そう、思う。

冷泉帝は静かに言った。

「私もそろそろ譲位しようかと思うのです。天変地異がやまないし、

私では治められそうになく思いますから」

光はきょとんとすると

「それはだめですよ」

いつかのように、ぴしゃりと言った。

「天地の災いは必ずしも政事のせいではありません。それに、譲位と言っ

てもどなたにお譲りするんです?春宮さまはまだ六歳ですよ。あまりにも

お可哀想だ」

すこし、ほほえむ。

「お気をつよくお持ちください。私も精一杯支えますから。二人でこの難局

を乗りきりましょう。お隠れになった中宮さまのためにも」

そう言って笑うので、冷泉は胸がつまった。

違う、違うのに

私は気づいたってこと、あなたにお伝えしたいのに。

光はにこにこしていた。

私たちは、あまりにも主従の会話に慣れすぎている

帝は寂しく思った。

本当は、もっとうちとけた話がしたいのに。

本当の親子の会話がしたいのに。

光も笑いながら「ん?」とは思っていた

何か気づいたのかな

藤壺が、実は言い残していったんだろうか。

いや違う、あの人はそういう人じゃない

こうと決めたら最後まで貫き通す人だ。

帰りながらふと、御所の桜が目にとまった。

花の宴

二十歳の春、彼女の前で舞を舞ったことを、そっと思い出す。

ちょうどあの子が生まれた後で、彼女はますます俺に文もくれなくて

寂しくて寂しくて、たまの行事のときだけ、遠くから見れたんだっけ。

そのとき珍しく歌をくれて。

うれしかったな

そんなふうに、ずっとやっていけるんだと思っていた。

浅はかというにはあまりにも憐れな、二十歳の自分。


冷泉帝はその頃、懸命に文献をあさっていた。

自分と似た事例が過去にないだろうか

実の親を臣下におくこととなった例。

そういうのはやはり、この国にはないようだった。

冷泉帝は悩んだ

どうしよう、でもこのままではつらいんだ

父を下におくだなんて。

一世の源氏、又、納言・大臣になりて後に、更に、親王にもなり、

位にもつき給へるも、あまたの例ありけり。*

これだ!と思った。

父にも帝になっていただければ、私の心も少しは軽くなる。

父に位をお譲りしようと決めた

もちろん光は、何も知らない。

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