17-2 墨染に咲け
まず、太政大臣が亡くなった。
葵、権中さんのお父さんだから、もうだいぶ年だった人だけど
それでも光は「うっ」と思った。
源氏の大臣も、いと口惜しう、よろづの事、おしゆづり聞えてこそ、
暇もありつるを、心細く、事繁くも思されて、嘆きおはす。*
そうそう、押し譲りてこそ暇もあったのに。
おじいちゃん亡くなっちゃったら、俺すごく忙しいんですけど…
そういう意味での悲しみに、光はきゅんとした。
天災、疫病もおこる。星月の光ちらつく。
とにかくすこし異常なことが続いた。
おいおい、例のオカルトかよ
今度の脅しは地球規模なので、さすがの光も恐ろしく思った。
とるなら俺の命だけにしてくださいよ。
そう願うのに。
藤壺中宮の病が重くなって、弥生、火の消えるようにふっと亡くなった。
正直、出家されたときよりショックでなかったというのは
我ながら冷血だなと光は思った。
あの時、光は大泣きした。
あの時彼女の死を、恋人との永遠の別れを経験した。
今も悲しいが、どこかあっさりしたものがある。
彼女はどこに行ったんだろう
皆と同じ場所へ迎えられ、父に会って許されているだろうかと
そんなことばかりを、ぼんやり考えていた。
深草の野べの桜し心あらば今年ばかりは墨染に咲け*
大切な人が死んだのに、桜の花は薄紅に美しかった。
亡くなった彼女よりも、それを深く悲しむ帝のほうが光の心にかかった。
父母とも亡くして、どんなに心細く思っていることだろう。
俺が父なんだよ!本当は生きてるんだよ!
といつも思った。
でも、言えない。
彼女が墓場まで大事に持っていった秘密なのだ
今さらは言えないと思う。
だが、気の毒な気もした。
こんな秘密を打ち明けないで、本当に本人のためにいいのだろうか
光は悩んだ。
念誦堂にこもって、彼女や父に相談しつつ祈った。




