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朱雀と弟  作者:
第二部  地獄へもとぶらひゆかん君が闇てらすばかりの光となりて
60/175

17-2 墨染に咲け

まず、太政大臣が亡くなった。

葵、権中さんのお父さんだから、もうだいぶ年だった人だけど

それでも光は「うっ」と思った。

源氏の大臣も、いと口惜しう、よろづの事、おしゆづり聞えてこそ、

暇もありつるを、心細く、事繁くも思されて、嘆きおはす。*

そうそう、押し譲りてこそ暇もあったのに。

おじいちゃん亡くなっちゃったら、俺すごく忙しいんですけど…

そういう意味での悲しみに、光はきゅんとした。

天災、疫病もおこる。星月の光ちらつく。

とにかくすこし異常なことが続いた。

おいおい、例のオカルトかよ

今度の脅しは地球規模なので、さすがの光も恐ろしく思った。

とるなら俺の命だけにしてくださいよ。

そう願うのに。

藤壺中宮の病が重くなって、弥生、火の消えるようにふっと亡くなった。


正直、出家されたときよりショックでなかったというのは

我ながら冷血だなと光は思った。

あの時、光は大泣きした。

あの時彼女の死を、恋人との永遠の別れを経験した。

今も悲しいが、どこかあっさりしたものがある。

彼女はどこに行ったんだろう

皆と同じ場所へ迎えられ、父に会って許されているだろうかと

そんなことばかりを、ぼんやり考えていた。

 深草の野べの桜し心あらば今年ばかりは墨染に咲け*

大切な人が死んだのに、桜の花は薄紅に美しかった。

亡くなった彼女よりも、それを深く悲しむ帝のほうが光の心にかかった。

父母とも亡くして、どんなに心細く思っていることだろう。

俺が父なんだよ!本当は生きてるんだよ!

といつも思った。

でも、言えない。

彼女が墓場まで大事に持っていった秘密なのだ

今さらは言えないと思う。

だが、気の毒な気もした。

こんな秘密を打ち明けないで、本当に本人のためにいいのだろうか

光は悩んだ。

念誦堂にこもって、彼女や父に相談しつつ祈った。

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