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朱雀と弟  作者:
第二部  地獄へもとぶらひゆかん君が闇てらすばかりの光となりて
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15-3 主人公補正?

「お前ってほんと汚いのな。乗り気じゃないフリして、最後は自分の

絵で勝負決めやがってさ。ほんとあくどいよ」

「そりゃどうも」

光は蛍とさしで飲んだ。

夜更かしして、もう東雲になっている。

「まあ、たしかにあの絵はすごかったけどな。都落ちか…残酷だな」

「もう済んだことだよ」

光は笑って酒をのむ。

「お前絵も描けたんだ。ほんと何でもできんのな、主人公補正?」

「まあ仕方ないよ、光る君だから。でも正直言うと、何ひとつ身に

ついてない気はする」

そういって苦笑するのが美しかった。

自分の才の騒がれ方を、我ながら大げさだとは思うらしい。

「そんなに気に入ったならお前にやろうか?あの絵」

「いいよ、あんな恐ろしくよく描けた絵。飾るとこないもん。縁起悪い」

「だよな」

光がくすりと笑う。

「中宮様に差し上げるんだろ」

「ああ…そうだな」

絵を欲して見せたのは何のためかな

帝とふたり

ただ見てくれるのなら、うれしいけど。

光の目は赤かった。だいぶ酔いがまわっている。

泣いたのかもしれないと思ったのは、蛍のやさしさのせいだろうか。

「未練、あるんだな」

「あるね」

「女はすっぱり忘れんのに?」

「女はつよいもの、誰だって」

そうさ、どんなにか弱く見えたって、腹からヒト生みだすくらいつよい。

「忘れてやれよ、相手のために」

「覚えてるよ。ほんのすこし愛した人だって、死ぬまでずっと覚えてる。

それが俺のやり方だもの」


蛍は筝を弾きながら、光の言葉を思い出していた。

その光は権中さんの隣で、美しく琴を掻き鳴らしている。

権中さんは、娘の女御に競争相手ができたものだから憎々しげだ。

それでも表面上はおとなしく、和琴を掻きたてた。

男の嫉妬って面倒くせえよな、言いたいことの半分も言えない。

それでいて、悔しさ取り繕うさまはすぐわかる。

「お前は何度生まれ変わっても男だよ、俺と同じで」

蛍は、中宮様から賜った御衣をすべて光に譲ってやりながら言った。

「どうしてだよ」

「だって弱いもの。一年近く腹ん中で人育てて、大出血しながら生み

出せるようなタマじゃねえ。男同士の騙しあいに勝利するのがせい

ぜいさ」

そう言って、にやりと笑う。

「男だって偉いだろ、種なんだから」

「男だけじゃ子はできないさ。娘がいなきゃ、出世もままならないしな。

女がいなきゃ始まらないんだよ、俺たちは」

光はすこしふくれて、蛍の背を見送った。

明け方の空に廿日の月が、寝ぼけまなこで浮かんでいる。

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