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朱雀と弟  作者:
第二部  地獄へもとぶらひゆかん君が闇てらすばかりの光となりて
55/175

15-1 偽善者め

十五.絵合

自分がやられて微妙だったことを息子にやるのに

光も抵抗がないわけではなかった。

だが、どこからか妙な娘を嫁に入れられるのもしゃくで

予定通り、前斎宮を入内させる。

彼女は梅壺女御と呼ばれた。

ふたりは大丈夫かな、気が合うかな。

自分のときを思って、光はすこし心配した。

冷泉さんは俺よりだいぶ大人で、やさしさもあるし

年上の彼女とも、きっとうちとけてくれるだろう。

そう、願う。

今日入内すると言う日、朱雀から祝いの品が届いた。

どれもていねいに心のこもったものばかりで

さよならの歌と文が、見えない所にそっと添えてある。

「お母様が生きておられたら、今日のご幸福をどんなにか

お喜びになることでしょう。末永く幸せに、お暮らしください」

光はその文を、まぶしそうに眺めた。

兄貴みたいに微笑んで別れるほうが、ずっと心に残るよな。


過ぎにしかたの御報いにやありけむ。*

「どう?俺の仕返しは。腹立ったでしょう」

光はにやりと笑って言った。

「自分がされて一番嫌なことだぜ、目つけてた女をとられるなんてさ。

俺なら我慢できないね。てか、とらせない」

朱雀は苦笑すると

「ほんとうに、美しい仕返しだったね」

ほうっとため息まじりにつぶやいた。

「斎宮さまのお輿入れは、さぞ美しかったことでしょう」

「兄貴の贈り物だって一応見せたけど、きっと処分されるからね。

どんなに美しい御櫛の箱香壺の箱も、今頃売っ払われるか女房に

分けられるかして、彼女の元には少しも残ってないんだから」

「うん」

光が悔しそうに言うので、ほほえましくてつい笑ってしまった。

「失恋したくせに後に残るようなもん贈んなよ、未練がましい」

「ごめんごめん」

そこは申し訳なくて、素直に謝る。

光は兄の真意をはかりかねて、その瞳をのぞいた。

「あの子のこと、そんなに好きじゃなかったの?」

「ん?いや、すきだよ」

「かわいいんだろ?」

「そうだね、少女の頃からとても綺麗だった」

「ならもっと悔しがってくれなきゃ。仕返し甲斐がないじゃん」

「うん…」

朱雀は微笑して、そっと前を見つめた。

「彼女を見ると、葵さんを思いだすんだよね…時期が近かったから」

似てるというわけではなかった。

ただ、気高い美しさと、伊勢へ下る海の匂いが

朱雀にとても葵を連想させる。

「身代り愛はだめだと蛍が言ってただろ」

「うん、もちろん」

贈り物も、海に投げ入れてくれればよかった。

海の国まで届くように。

「ほんとは葵が好きだったんだろ」

「うん。すきだったね」

「奪いたかった?」

「まあ、すこしは」

「ついに本音を吐いたな、この偽善者め」

「ふふふ…」

「いくら兄貴がそのつもりでも、俺は渡さなかったよ。あんな美人、ぜっ

たい渡さない」

「うん」

そう言ってくれるから、光がすきなんだと思った。

「光と葵さんと夕霧くん、三人で仲良く暮らしてるところ、見たかったな」

「仲いいかどうかわからないぜ?あいつプライド高いし、俺に似て生意

気だしさ。十歳なのにもう反抗してくんの。小憎たらしいったらないぜ」

「いいなあ、かわいいなあ」

朱雀は夕霧にべた惚れなのか、のほほん顔でうらやましそうに聞いている。

「兄貴は自分の子を大切にしなさい。春宮でしょ」

「うん。でも、お母さんのいない子はつい気になっちゃって」

「ああ、俺みたいに性格ゆがむから?」

「そんなことないけど。光はやさしいじゃない」

そう言って笑うから、光はぐっとつまった。

ほほえむ子にとどめを刺せないのと一緒だよな。

大人になっても変らぬ笑顔に、ついペースを乱される。


「帝の母親って、やっぱ力つよいんだね」

その話題に移った時、光の目は寂しげだった。

「俺、弘徽殿さんだからつよいんだと思ってた。でも、誰がなっても

それなりに勢力張れるんだね」

さびしい、気がする。

「左、右とわけて論争させてさ。それを見て楽しむなんて。なんか気

に入らねえな。兄貴の頃は、そんなのなかったじゃない」

彼女がどんどん変わっていく気がした

いや、訂正する

俺の知らない部分がどんどん見えてきて、それが嫌なのだった

俺の中のイメージ壊される気がして。

「うちは母が怖かったからね。争うと危ないというか」

朱雀はすこし笑うと、光を慰めるように言った。

「中宮様はすばらしい方だと思うよ。どちらか一方に肩入れなさることも

ないし。世の中も安定して、俺なんかの頃より皆ずっと喜んでると思う」

「肩入れしてるよ」

光は眉を険しくして、すこし黙った。

「これが宮廷闘争ってやつなのかね。きらびやかに飾って、見えないと

こで争ってさ。権中さんなんて必死だぜ?今さら新しい絵を描かせたり

してさ。醜いよ。こんなことで帝の寵愛って決まったりするわけ?」

「うーん…」

朱雀は返答に困って、しばし苦笑した。

「冷泉さんはおやさしいから、それほど差がついたりはしないだろうけど…

これもひとつの文化なのかもしれないね」

「文化?」

「うん。帝のご興味のおかげで、絵師さんたちや巻物の装丁をする職人

さんたちにも活躍の場が増えたように思うし。挑みあいに使われるとは

いえ、一流の職人さんが丹精こめて作ったものなら、きっと人の心をうつ、

素晴らしい品になるだろうからね」

「ふうん」

そういう考え方もあるのかと、光は黙って聞いていた。

たしかに、競い合いのないところに発展はないのかもしれない。

それをただの争いでなく、文化にまで高められれば。

醜さもすこしは軽減されるはずだ。

「ありがと、参考にするわ」

光は笑って出て行った。

これから絵合

絵の準備をしなくちゃいけない。

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