12-2 あなたの場所
光二十九歳の如月、春宮が元服した。
十一歳だったが、光に似て美しく、しっかりした人だったので
朱雀は安心して位をお譲りした。
光は内大臣に、左大臣は太政大臣になった。
世の中の事、ただ、なかばをわけて、太政大臣、この大臣の御ままなり。*
宰相中将も権中納言になって、うれしげである。
朱雀は、夕霧が可愛い姿で殿上するのを微笑んで見ていた。
帝とも、仲良くしてくれるといいなと思う。
などか、御子をだに、も給へるまじき。口惜しうもあるかな。*
「子がいたら私も太后になれたかもしれませんのに!惜しいことをしたわ」
朱雀の言葉を横取りして、朧月夜は嘆息した。
「俺たちはすこし近すぎるようだから…ごめんなさい、力になれなくて」
朱雀がやさしく慰める。
「これからでもいいから作りましょう!」
「ええっ…でも俺、下りてしまうから。いろいろ保護してあげられなくなる
かもしれませんよ」
「私がそんなことさせませんわ。内大臣を脅してでも、あなたを養わせて
みせます」
朧月夜は息まいた。
なかなかたくましい。
「お父上が亡くなって、母も病気がちだし、心細いですね。俺も隠居の身
だし」
この人の身の上だけが案ぜられた。
落ちぶれたりさせたくないな
美しい人だから、いつまでも華やかに暮らしてほしいと思う。
「弟さんに頼れとおっしゃるんですの?」
朧月夜は、すこし怒って朱雀を見た。
光の帰京以来彼女は自重して、光とほとんど連絡を取らないことを
朱雀は知っている。
本当は会いたいだろう
おそらく、光も。
「無理しなくていいんですよ」
「無理などしていませんわ」
朱雀は苦笑した。
「あなたは、私があの方のもとへ行ったほうがいいんですのね。
あの方のもとで、あの方に抱かれて、子ができても平気なんですね」
「それは…そうなってくれたら、うれしいです」
朱雀は素直に答えた。
女がそれを望んでいるように思ったので。
「薄情な方。いいですわ、もうあなたのお世話になんかならないから」
朧月夜はつらそうに横を向いた。
ほんとうは、帰る家などない。
実家はいづらいし、光は浮気相手だから、自邸には呼んでくれないだろう。
朧月夜はひとりだった。
朱雀に捨てられたら、ひとりだ
でも、頼りたいともいえない
光と浮気してあんな騒ぎを引きおこし、光の地位も、朱雀の名誉も傷つけた。
自分は悪い女なのだ。それはよくわかっている。
でも、愛されたかった。
「俺は、あなたがどこにいても、誰といても大好きです。あなたの場所が、い
つも心にあるんです。あなたがいてくれないと、そこは空っぽになっちゃうんで
すけど…でも、待ってます、いつでも。あなたの場所を用意して、待ってます」
朧月夜は、それをさよならと思って聞いた。
お別れ、なのかな?
朱雀は恋の呪縛から解かれ、自由に飛び去ってしまうんだろうか。
そんなのは嫌だと思った。
「じゃあ、あの方の子を身ごもって、あなたの子のように産みますわ。そして
育てていただくの」
なかなか恐ろしい計画を思いついた。男を縛りつける、古くからの手。
女性ってすごいことを考えるなあ
朱雀が思わず苦笑する。
「ずっと離れませんわ。くっついてるかどうかはわからないけど、あなたとは
離れない。離れたくない」
「うん、ずっとね」
抱きしめて微笑んだ。
体じゃないつながりが、いつの間にか育っていたように思った。
抱き合っても、抱き合わなくても。
ふたりはずっと、恋人でいる。




