11-8 父に似て
「長い間待たせて本当にごめんね。奥様も心配してらしたでしょう」
「うん、髪なんかすこし減っちゃってね、でもそれがちょうどいい感
じに可愛くて」
光はそっと笑った。
十五夜の月に、横顔が美しく輝く。
朱雀もきちんと装束して座っていた。
そっと、酒をつぐ。
「無事に帰ってきてくれてありがとう。春宮さまも大きくなられたし、
そろそろお譲りしてもいいのかな」
「ああ」
光も朱雀の横顔を見ていた。
このひとすこし変わったな
白い包帯に黒髪がかかって、重病ではないが、はかなげに見える。
男が女を変えるというのはよく聞くことだが
女も男を変えるんだなと、感心してながめた。
以前はただ、おっとりとやさしい男だったのに。
切ない恋を教えられたからか
今はただのいいひとではすまない、憂いというか、艶をもっている。
「この前父上にお会いしてね、きつくお叱りをうけたよ。早く光を
呼び戻してあげなさいって」
光は父の顔を思い出して
「何か言ってた?俺のこと」
身を乗り出してきいた。
「うん、しあわせになりなさいって。三人ともしあわせになってと
言ってたよ」
朱雀が言うので、嘘くさく聞こえた。
いいひとだからな。恨み言を改変したのかもしれない。
でもその微笑はやさしかった
朱雀の笑みは父に似て、いつもやさしい。
「そう」
光はふーんとうなずくと、酒をぐいっと飲んだ。
「まあ位も上がったことだし、そろそろ始めようかな、仕返し」
「うん」
「簡単なことじゃないぜ。俺がされて嫌だなーって思うつらいことを
たくさんするから。容赦しないから」
「うん、覚悟してる」
朱雀は笑ってうなずいた。
自分など、どうなっても大差ない
光が戻ってきてくれたのだ、都に。
それが何よりうれしい。




