11-6 女性博士
「一年以上もつらい思いをさせて、本当にごめんなさい。祖父も亡く
なったのでそろそろかなと思いますが、光のご都合はいかがですか」
呼び戻すのに都合をきいてくるところが、いかにも兄らしいと思った。
勝手に行かせてまた勝手に連れ戻すのは、申し訳ないと思うらしい。
光はこれまで交わしたいくつかの文に、朱雀の変化を感じていた。
何と言うんだろう、やさしさ、誠実さは変わらないのだが
しなやかさの中につよさがある
その芯が、すっと立ってきた気がする。
「俺ものんびり祖父の死に待ちをしてました。自分がけっこう残酷な
人間なんだってことに、ようやく気づけた気がします」
そんなことを、そっと書いてあった。
書きながらいつものように、やさしく笑っていることだろう。
光の都合はというと、あまりよろしくなかった。
こころくらべにてぞ、過ぎける。*
まさにそうで
入道が、神への願掛けとか何とかいろいろ因縁めいたことを言うので
じゃあ会ってやろうかと思うのに
来なよって言っても、娘まったく来ない。
娘の家は入道とは別で、そこに女どもが住んでいるのだけど
どれだけ思い上がってるんだろう
せっかく文だしてやったのに、入道が代筆で返してきた。
代筆とか、無礼すぎるだろ。
しかも親父の代筆って、どんだけ色気ないんだよ
さすがの光もむっとした。
こんなところに流されてきた男だと思って、馬鹿にしてんのか?
これでも先帝の息子だぞ。
これだからプライド高い女は嫌なんだよ
もううっちゃっておこうかとうんざりする。
紫呼ぼうかな
でもここひとん家だしな、田舎だしとためらわれる気がした。
やけに恥らって出てこない人って
葵みたいにとびきりの美人の場合もあるけど
たいていリアルに顔に自信ない女が多いんだよな。
顔に自信がないから、やたら隠して小出しにしようとする。
声とか琴とか途中で弾きさして
もすこし聞きたい、知りたいって心をあおる。
それで男を落とすってテクなんだろ。
光もそれはわかっていた。その方針にも文句ない。
だって、綺麗でもないものの全貌をいきなり見せられちゃってもね。
末摘花じゃないけど、ひいてしまうし。
はっきり見てがっかりするのが残念な気もした。
まあ、琴の音は悪くないみたいだけど。
聞きながら、結局自分で女のそばへ来てしまった光である。
「ごめん、もすこし待って。こっちの女が気になるんだよ」
そう返ってきた文を、朱雀は苦笑して眺めた。
またお婿さんハンターに捕まっちゃったのかな
光って女性にもてるけど、そのお父さんたちにも大人気の気がする。
しかも、紹介されればまんざらでもない感じで興味もってくれるし
やさしいんだよなと思った。
たんなる女好き、色男というよりは
いろんなタイプの女性と接してみたい、愛してみたいという
女性研究家というか、女性博士的なところがある。




