11-3 地獄へでも参上
結局、その後父には会えなかった。
やっぱり兄の所へ行ってしまったらしい。
明石入道の誘いには、そむかず舟に乗った
危ない橋かもしれないけど。
夢の中にも、父帝の御教へありつれば、又、何事をか疑はん*
他に行くところもないんだし
父のすすめなら、地獄へでも参上すべきかと思う。
入道の邸は、地獄にしてはきれいだった。
花が咲き、鳥もさえずる
三位中将をはじめ、都の人に転居の文を書いた。
入道の宮ばかりには、「珍らかにて、よみがへれるさま」など、
きこえ給ふ。*
「おかげさまで、すこし趣のある住まいに移ることができました。
これもあなた様のお祈りのおかげかと存じます」
父に会ったことは、あえて書かなかった
怖がりなひとを不安にさせてもいけないので。
明石入道というのはすこし頑固な人で
光に娘をもらってほしいというそぶりを、たまに見せた。
これは…久々の婿ハンターかな。
光は微笑してかわしつつ、内心警戒した。
娘をいい男と結婚させることで
その婿まで息子のように思い、かしづく
というのが好きな老人がある。
たとえば、葵の父の左大臣とか。
光はその手のハンターに狙われやすくあった。
よほど俺が女に飢えてると見えるか
自分の娘に自信があるかだねえ。
おそらくは、その両方なのだろう。
光は居候の身で断りづらくはあるが、何気なく上品にかわした。
紫に悪いしさ。
この男にも一応、妻への配慮はある。
今のところそういうのはパス、という態度でしばらく過ごした。
経を読み、筝など弾きすさんで、日を送る。




