11-2 藤壺さんと…
星の光が見えていた。
寝殿は焼け残るもぼろぼろで、御簾も何も吹き飛ばされている。
爆弾でも落ちたかのような有様だった。
狭いところで皆と一緒にいながら、光はうつらうつらしていた。
疲れた
ただむしょうに疲れて、眠りたく思った。
生きるって、こんな疲れることだっただろうか。
まだ高い波の音が、ざざんざざんとかすかに聞える。
「ひどい所だなあ…よく辛抱しているね」
ふと気づくと、父が在りし日の姿そのままに、そっと立っておられた。
光の手をとり、立ち上がらせようとする。
光は、父の手にぬくもりを感じた
「父上…」
手を取られたまま、つと立ち止まる。
これは、罠だろうか。
疲れきった俺への、最後の。
それでもいいと思った
父の姿は懐かしく、あたたかい。
昔のようだった
俺がまだ彼女を想う前の、本当の子供のときの父だと思った。
「ずっとお会いしたいと思っていました。言わなきゃならないことが
あって…今日ここで、死のうと思います」
死んで、ついて行こうと思う。
父は光の真剣な眼差しに苦笑すると
「まあそう早まるな。お前があまり苦しんでるようだから、遠いところ
をはるばるやって来たんだ。私は朱雀に用があるから、ちょっと
行ってくる」
そういって、くるりと背を向けた。
「父上!」
光は父を呼びとめた。
「実は俺、藤壺さんと…」
父はそっとふり向いた。
ふりむいて、ほほえむ。
みあげ給へれば、人もなく、月の顔のみ、きらきらとして、夢の心
地もせず。*
光はまばたきをした。
父がまだ、そこにいそうに思う。
謝りたかった
いや違う、叱られたかった。
叱られ殴りとばされて、認められたかった。
罵られ蔑まれてもいい、彼女とのことを知っておいてほしかった。
もはや俺たちの中ですら消えかけた過去の情熱を
交わした想いを証したい。
内緒で仲良く暮らすより、憎まれてでも真実でつながっていたい。
生きてるうちに告白しなかったことを、ずっと後悔していた
父を、信じなかったことを。
もう一度会いたくて眼を閉じた
父に
父に会いたい。




