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朱雀と弟  作者:
第二部  地獄へもとぶらひゆかん君が闇てらすばかりの光となりて
40/175

10-5 光なき心地

朧月夜は文月に宮仕えに戻った。

でも、いつもの明るさが消えて、しょぼんとしている。

朱雀はなるべくそばに呼んで守った

口さがない噂話から、彼女を守りたかった。


「私を須磨に流してください。あの方と同じ場所に」

朧月夜は必死だった

必死に懇願する。

「あの方のせいではないですわ、罪というなら同じこと。私も同じ責め

を受けたい。ひとりだけ許されるなんて、耐えられません」

朱雀はつらく思った

彼女の言うとおりにしてあげたい気もするけれど、

そんなことをしたらより光の罪が重くなってしまうのではないか

彼女の身の安全もはかれないしと思い、悩んでいる。

「あなたがおっしゃれないなら私から言いますわ。父など怖くない」

朧月夜は焦っていた

焦って興奮して、先が見えなくなっている。

光にひと目会いたかった

ただ会いたくて、抱きしめたくて仕方なかった。

「あなたは平気なんですの?弟を追放したりして。そんなに姉が怖い

んですか」

彼女は怒った

怒りながら泣いている。

さりや。いづれに落つるにか*―

朱雀は言わなかった

答えは、わかりきっている。

どうか、泣かないで…

朱雀はその涙を、やわらかな袖でそっとぬぐってやった。

「平気じゃ、ないですよ」

さまざまな苦悶を、ただ一すじの苦笑にして見せる。

「ただ、あなたがあまり光を想うから。でも光にはあなたを頼まれている

し、それで」

つらいのだ、とは言えなかった。

光を追う彼女は海の姫君と同じだ

ふたりの前途はきっと洋々なはず

朱雀にはそれが望ましく、また悲しくも思えた。

邪魔するのはよくない

だが、彼女のしあわせだけを素直に願えぬ自分の心に

彼は戸惑っていた。

「私と離れるのが、つらいんですの?」

朧月夜は不意に朱雀を見た。

「はい…」

朱雀が、うつむく。

帝になってからはじめて、私心を見せたように思った。

それがすこし恥ずかしく、また、いけないことのように思う。

女は身をよじってぎゅっと朱雀に飛びついた。

「耐えますわ、どんなそしりにも耐えてここにいます。だから一緒にいて」

朱雀も彼女を抱きしめた。

「好きです」


その横恋慕をつらく、申し訳なく思いながら

朱雀はやめることができなかった。

彼女に求められ、応じるほどに惹かれていく。

これが恋なのかと思った

こんなにつらく、激しく、切ないものなのか。

光の身を案じながら、こんな背信行為をして

ぬくぬくと、自分は帝位におさまっている。

父上のご遺志を違えて、光をないがしろにしている。

いつか罰を受けると思った

光を呼び戻して、できるなら、その手から罰を受けたい。

ふたりは少しずつ退廃していった

光がいなくて、さびしい。

なに事にも、光なき心地するかな*―

女はその言葉どおり、火を消して朱雀に抱かれた

女の寂しさが、ふれた面からじかに伝わってくる。

この体が、光ならいいのに。

朱雀は思った

自棄的な快楽に陥りながら、ただそれだけを思った。

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