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朱雀と弟  作者:
第二部  地獄へもとぶらひゆかん君が闇てらすばかりの光となりて
39/175

10-4 心ひろさよ

春になり、秋になった。

光、相変わらず帰れない。

さみしいな…

紫のことを想った

十八で女ざかりだ

今抱かなくていつ抱くってとこなのにさ。

おあずけ喰らった犬みたいに

ひとりだと、しょぼんとする。


「俺ってさ、こんなに友だち少なかったっけ?」

女との文にかまけていた光も、やっとそのことに気がついた。

彼に文する男といえば、三位中将と蛍と、朱雀が女からの文のように

そっとそっと送ってくれる、その三人しかない。

あれ?ぜんぶ血縁。

「男に興味ないからあまり付き合いないとはいえ、この少なさはショック

なんだけど」

「当たり前ですよ、あなたはいつも友情より恋愛を選ぶんだから」

惟光はつんとして、そっけなく言い放った。

「太后の報復が怖くて、誰も出せないんですよ」

良清朝臣がやさしくフォローしてくれる。

「お前たちも、俺なんかに関わるとろくなことないから、都へ帰っていいよ。

家族もいるだろ」

光は、ふたりの忠臣を気の毒そうに眺めた。

この人たちは何の関係もないんだから

沈みゆく俺の道づれにすることはないと思う。

「俺何でもひとりでできるから、大丈夫」

「嘘ばっか言って。井戸のありかも知らないでしょう?あなたみたいに

高貴で何もしてこなかった人は、朝起きて顔洗うだんから困りますよ」

惟光はさばさばしていた

さばさばしてるが、冷たくない。

「それに、帰れって今さらどこに帰るんです?俺の母はあなたの乳母で

すよ。もう何年の付き合いになると思ってるんです」

「二十年にはなるね」

「そんな長いこと、好きな女とだっていたことないのに。俺はもうどこまで

もあなたについて行くって決めたんすよ。かじりついて、意地でもその恩

恵にあずかってやる。そうじゃなきゃ、今まで昼夜尽してきた苦労が報わ

れませんよ。俺の女だってとったくせに。忘れたとは言わせませんよ」

光は言われて、思わずその人の面影を胸に描いた。

「夕顔か…彼女は本当に可愛かったね。助けてやりたかった。惜しい人を

亡くしたよ。彼女に先立たれてから、俺の人生は流転し始めた気がする」

光は、白い綾に紫苑色を重ねていた。

その白が、垣根に咲いていたあの夕顔を思わせる。

「でもとったんだっけ?彼女の方から俺に歌をくれたような気がしたけど」

「その後俺に調べさせたでしょう、いろいろ。お隣のよしみで口説いてはい

たんですよ。まあ誰かさんの光に気おされて、見向きもされなかったけど」

惟光は恨めしそうに文句を言った

その何でもはっきり言う癖が面白い。

「ほら、当時の俺の日記にもありますよ。

わが、いとよく思ひ寄りぬべかりしことを、ゆづり聞えて。心ひろさよ*―

ほんと心広いですよ俺は」

「お前日記なんてつけてんの?」

「つけてますよ、あなたとの日々を克明に。もう十帳にはなります」

「何のためだよ?」

「あなたが死んだ後暴露本を出すために決まってんじゃないすか。あなた

の幼少期から死ぬまでを、特に友だち少なかったことを中心に、後世に

語り伝えてやります」

「そんな本だすなよ」

光は思わず苦笑した。

「どうせなら俺の華麗なる恋愛遍歴をかいてよ、格好よさ増し増しでさ」

「そんなもん誰が読むんすか、嘘くさい。セレブの隠された裏側を暴くから

意味があるんでしょ」

「そのために俺に仕えてるのかー」

「そうですよ。光る君の最も近しき侍従、惟光民部大輔が筆なり。どうです、

信憑性あるでしょ」

「迷惑だなあ」

光はおかしそうに笑った。

冗談かな?

でも惟光なら頭も回るし、案外本気かもしれない。

「本出されるのが嫌なら、俺より長く生きることです。あなたは帝の弟なん

すから。こんな海辺で潮たれてる場合じゃないですよ」

ついでのように大切なことを言って、惟光はぷいと横を向いた。

「素直じゃないなあ」

良清がくすりと笑う。

なんだ、励ましてくれてたのか

いつもの戯れ言のように聞いていた光は、すこし感動した。

彼らの前ではあまり泣きごとを言わないよう、明るく振舞っていたつもり

だったのに。

最近弱気になってたのが、ばれていたらしい。

「ありがとう、お前たちのためにも必ず生きて帰るよ。それまでよろしく

頼む」

光は礼を言って、ふたりに微笑した。

苦しい時支えてくれる仲間の存在を、宝のように思った。

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