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10-3 便利屋蛍
須磨の浦はわりと近かった
片道十二時間くらい
夜明け前に出て、午後四時頃に着く。
邸も海の家くらい海に近いのかと思ってたけど
案外山で
浜からすこし入ったところ
物寂しくて
風だけが海の匂いを運んでくる。
「ついた?」
その日のうちに早速蛍から文が届いた。
「俺速達事業もしてるから。要望があれば、誰より早く届けるよ」
相変わらず商売気が多い。
「こっちはみんなしょぼんとしてるよ。お前のせいで都大路が陰気
臭いぜ、春なのにさ。早く帰れよ。女どもが待ちくたびれて老女に
なるぜ」
蛍なりの励ましに、光は苦笑した。
女たちか…
紫はどうしているだろう。
土地や財産はすべて譲ってあった
俺が死んでも困らないように。
あとは邸の警備だよな
女所帯を守る屈強な侍が必要だ。
「ガードマン派遣して、俺んちに」
便利屋蛍に頼んでおいた。
自分の配置した警備員もいるのだけど。
念のため、より厳重にしたい。
田舎住まいで嘆いてばかりもいられなかった
俺は、帰るんだから。
つよく、そう思う。




