9-7 あらしのよるに
「事故とはひどいな、アクシデントかい?」
「人との出会いはつねにアクシデントですわ。良し悪しは別として」
「俺との出会いは?」
「まあ、最悪の部類ですわね」
光はくすくす笑った
この子は本当に面白い。
「じゃ、そんな最悪男と何度も寝てる君はどうなの」
「もちろん極悪ですよ」
「その極悪魔女さんが帝を襲ったわけか」
「襲うだなんて人聞きの悪い。愛を交わしただけですわ」
この人といると安らぎを感じた
そうそう、こういう他愛ない冗談を言いあえる女が俺は好きなんだよ
ここは女の実家だった
太后さんもそばにいる
でもそのどきどきがたまらなかった
疲れきった今の光には。
「文王の子、武王の弟*。俺だってまかり間違えば天子にもなれた男
だぜ?」
「ええ、その間違いが起こらなかったことだけがこの国の救いですわ」
「ふふ…たしかに」
笑って女を抱き寄せた
女の胸はあたたかい
女は最初から気がついていた
光の身に何かあったということ。
「あなたが私に会いにくるのは、いつも何かつらいことがあったとき
ですわね」
「うん、わかる?」
「ええ」
「癒されたいんだ、外は敵ばかりで。帝だって助けてくれないしさ」
「あなたが帝をお助けする立場でしょう?」
「だって、仕事なんて何もさせてもらえないもの、参内したってしょうがな
いよ。君のお父さんにでも取り入って、すこし権力分けてもらおうかな」
「今さら無理ですよ、怒らせるだけですわ」
女は苦笑して、光を婿にしてもいいと言っていた父を思い出した。
「男の方には、ただ女がほしいときというのがありますのね」
「うん、君みたいな可愛い女性がね。ただ寄り添ってくれると、とても
助かる」
「都合のいい女、でしょう?」
「それはお互い様だろ?」
見抜かれて、女は苦笑した。
それぞれ誠実な連れ合いを持ちながら、それなのに連絡を絶ちえない
乱れた関係
表向きの人とは分かち合えない苦悩と快楽が、ふたりにはある。
「どうしてそんなに俺の気持ちがわかるの?」
きもちよくされて、男はたずねた。
「私もときどき、無性に男がほしくなるからですわ」
女は答えながら、ふと朱雀を想った。
私がこうしてる間にも、彼は誰かと寝てるんじゃないかしら…
自分が浮気する人ほど、相手の行動を疑うらしい。
あらしのよるで
夏の雷がぴかっぴかっと鳴った
雨が降って
ふたりの未来を予感させる。




