9-5 女はみんな
すこしは思い知ればいいと思っていた
真っ赤な紅葉に文なんかつけて
これみよがしに送ってやる。
俺がいなきゃ、春宮の御世なんておぼつかないんだからね。
彼女は相変わらずまじめいっぺんとうの返事
息子息子息子息子
もう俺たち、その話題でしかつながれないのかな。
今日は久しぶりに内裏へ行った
息子と水入らずした彼女が三條邸へ帰るというので、そのお迎えに
あまり不仲なのも妙だから、取り澄ました顔で参内する。
挨拶がてら、まず朱雀に会った。
「涙なんか落として。そんなに斎宮が気に入ったの」
「いや…なんかふと思い出しちゃって、葵さんのこと」
朱雀は恥ずかしそうに微笑した。
海の姫君を思い出す。
「よかったの、六條さんとは」
「ああ。別れたんだ、俺たち」
光は小さくつぶやいた。
遠くを、見ている。
「女って、変ってしまうんだね」
自分が変えてしまったことはわかっていた
高雅な貴婦人を嫉妬の鬼に
生霊に
恋しい女を母に
女はみんな変ってしまう。
「男はたいして変らないのにね、子ができたって。今まで以上に頑張る
だけなのに」
「うん…」
朱雀はそっと光を見つめた。
綺麗な、何食わぬ顔が、どうしたらいいんだろうと叫んでいる。
「いつもありがとね、いろいろ。俺の名で贈ってるから、おかげさまで祖
父さん祖母さんに喜ばれてるよ」
「いや、こちらこそありがとう。差し出たこととは思うんだけど」
「ううん。俺が忘れても兄貴が覚えててくれるから助かるよ」
夕霧の話になると、朱雀はうれしそうに微笑んだ。
そう
やっぱり愛しい女の生んだ子は可愛いよな
彼女あっての息子なんだと思う。
「譲位、しようか」
朱雀はやさしい眼差しできいた。
「まだ六つだぜ?早すぎるよ」
「でも、母が」
言いかけて、朱雀は眉をよせた。
「母が何かしてからでは遅いよ」
「相手は中宮、春宮だろ。自分より地位の高い者を脅かすことなど
できないよ」
「でも…精神的に追いつめることは、ありうるよ」
それがこの瞳だなと思った。
朱雀の瞳はもの憂く潤んでいる。
「そんなにつらいの?」
「うん…」
「譲位する?」
「いや、光がまだというなら」
辛抱するというふうに、ゆっくりうなずいた。
「自分で決めていいんだぜ?本音を言ってみなよ」
「許されるなら…春宮さまが元服なさるまでは、何とか責任もって務め
たいけど」
「うん、それでいいさ」
光は笑って許してくれた。
許しのようなあきらめのような、やわらかい微笑。
「あの人、あの…光のことが好きなんだよね?」
言いさして、朱雀は下を向いた。
すこし、はずかしい。
「わかんない。俺には兄貴がいいと言ってたけどね」
「でも二人は先に付き合ってたわけだし…」
「関係ないよそんなの。気に入ったなら奪えばいい。女もそうしてほしく
て仕掛けてるのかもしれないし」
「んー…」
朱雀は困ったふうで考えこんでしまった。
今まで十分すぎるほど与えられてきたのか、奪うことに慣れぬらしい。
「俺は手引く気ないから。ふつうに付き合うし。彼女が悩んでたら、そ
れは兄貴の責任だから」
「えっ」
「抱き落とすか手を引くか、ふたつにひとつだぜ」
「……」
泣きそうな顔をするので、おかしくて笑った。
檻の中の王様は、やはりすこしやさしすぎるらしい。




