9-3 俺あっての息子
「なぜそんなに怖がるんです?」
光は衣の端をとらえた。
髪もとらえ、背中から抱きつく。
「俺が守るって言ってるでしょう?あなたもあの子も。太后など恐
れることはない。俺が大臣になって、必ず守ってみせます」
藤壺はふるえていた。
頬を赤くして、気持悪そうにうつむく。
「あの子が即位するまでの辛抱じゃないですか。俺と一緒に、彼の
世を創りましょう」
それが俺たちの世なんだと思った
俺たちの求める、自由に会える世界。
「こわい、ですの」
藤壺は苦しそうに首をふると、かすかに言った。
「こんなことは許されない。きっと露見しますわ」
「誰に?ここは内裏でもない、あなたの邸なんですよ」
「院のみかどに…」
藤壺は泣いていた。
「あなたの心がやむようにと毎日祈りましたわ。院にもお祈りして
います。どうかお許しくださいと」
「もう死んだ人をなぜ怖がるんです?」
「どこからか見てらっしゃる気がして。このことをご覧になって、私
はよくても春宮さまに何かあったらと思うと、怖くて」
光はつかむ手をゆるめた。
祈るって…
俺の言葉より、死んだ人を信じるの?
死んでまで、俺たちは縛られなきゃならないのだろうか。
目の前が霞んだ。
にじんで、くらくらする。
「たまに会って想いをきいてくれるだけでいいんだ。息子のこと、
俺たちのこと、話し合って一緒にやっていこうよ。協力して、家族
になろう?」
藤壺は首をふった。
光の香が吐気をもよおさせているようだった。
つかんでいた手を、放す。
「そんなに俺が信じられないんだね」
切なくて、流れるように部屋を出た。
太后、父院、それが何だというんだ
自分だけしかあの子を守れないような言い方をして。
実際後見するのは俺なんだぜ?
なんかむしょうに腹が立つ。
息子息子ってえらそうに。俺あっての息子だろうが!
歩きながら拳を握りしめた
がん!
太い柱を横殴りに殴り捨てて去る。




