9-2 耐久年数
如月、朧月夜は尚侍になって宮中へ上がった。
本当は女御として入内させたかったのだが、まあ障りがあって、仕方なく
女官に落としたらしい。
太后さんはこれについても光を深く恨んでいるようで、重石の父院も亡く
なった今、思う存分これまでの仕返しをしてやろうと躍起になっていた。
生まれてこのかた大した不遇も受けずにきた光は、これが野に下るとい
うことかと身に沁みて感じることが増えていった。
要するに、面倒くさい。
「私を抱いたのは姉への報復ですの?」
朧月夜が腕の中できいた。
その身をそっと抱き寄せる。
「そんなことないよ。君の美しさに惹かれたからさ」
可愛い女にそっと口づけした。
昔出会った弘徽殿で、ふたりは今も会っている。
「君こそ怖くないのかい?五壇の御修法なんてめったにしない行事だぜ。
兄貴は父のために行うんだろうけど。そんな隙を盗んで」
「だって、帝は私のことお嫌いみたいですもの」
「おや?」と思って、光は続きを聞いた。
「夜の御座にも呼んでくださらないし。おやさしいけど抱きしめるだけで、
お手もお触れになりませんわ」
女は不満というか、寂しそうにしている。
「あなたさまのせいですよ、先に手をおつけになって」
「そんなことじゃないよ」
光はくすりと笑うと
「兄貴は君に遠慮してるのさ」
ふふふと笑った。
「遠慮?」
「ああ。君と俺がこういう関係だってこと、兄貴知ってるんだろ?俺たちの
仲を邪魔するのは悪いと思って、遠慮してるんだよ」
「まあ」
女は意外そうに目を大きく開いた。
そういう配慮のある男を、過去に知らないらしい。
「じゃあ、嫌いってわけではないんですのね」
「たぶんね。兄貴が誰かを嫌うのを見たことがない」
「なら、やってみますわ」
女はすこし元気づいた。
「兄貴がすきなの?」
「ええ。私のものにしたいです」
おやおや、なかなか過激なことを言う。
「どうしてすきなの」
「あのはかなげな美しさがたまりませんわ。薄幸そうで」
「失礼だね」
「あら、褒めてるんですのよ。あんなたおやかな男の方、他に見たことが
ありませんわ」
朱雀はことのほか彼女にもてているようだった。
なら話は早い。
「兄貴のこと、元気づけてあげられる?」
「私がですの?」
「うん」
「あなたにしたように?」
そういって笑うのが可憐だった。
たおやかなのは君だよ
胸に顔を押しつける。
「俺と兄貴と、どっちがすき?」
「それはまだ、わかりませんわ」
「抱いてから決めるんだ」
「でもあなたも好きですよ。タイプは違うけど、やはり幸薄いみたい」
「鋭いね」
言われて、しばし苦笑した。
「お金や地位があっても手に入らないものが、欲しいんですのね」
「ああ。人の心が」
彼女の心がほしいと思った。
俺もいいかげん諦めればいいのに
もう十年以上想っている。
耐久年数とっくに過ぎてるよ
いつ壊れてもおかしくない自分だと思った。




