2-2 貞操の義務
「や」と、おびゆれど、顔に衣のさはりて、音にも立てず。*
誰…?
声が出なかった
袖で顔を覆われて、声が出ない。
「こんばんは」
光は暗がりで女を捕えた
細くてか弱い。俺好みのらうたさ。
「すこしお話しましょうか」
やわらかく笑うと、小柄な女を抱き上げる。
「これは、いったい…」
見つけた女房も驚いて息をとめた。
他の男なら力ずくでも止めるのだが
帝の愛息光のすること
さすがに止めるすべがない。
光はすたすた、女を小部屋に連れ込むと
「明け方迎えにきてね」
にっこり笑って障子を閉めた。
「人妻だから、興味をもたれたんでしょう?わかっております」
女はうつむいて、小さな肩をふるわせた。
このひとは本気じゃない
ただの遊びで、抱きに来てるんだ。
さっきの動揺が悲しみに変わって、目に涙がにじんでいる。
「いと、かやうなる際は、際」とこそ、侍るなれ*―
「私のような下の女は、好きになさっていいと思ってらっしゃるんですね」
「そんなことは」
光はそっとほほえんだ。
その際々を、まだ思ひ知らぬ初事ぞや。*
「大切にしますよ、未熟者ながら」
ささやくと、女の首に頬をすりよせた。
甘い香がむっとただよう。
消えぬ証拠を残されるのではないかと、女は震えた。
「そんなに怖い?俺が」
「義務を、やぶるのですもの」
「貞操の義務?」
「はい」
「そんなにあの爺さんが好きなんだ」
「好きではないですけど…義務ですわ」
「義務ね」
光は軽く笑うと、女に口づけした。
甘い匂いに侵されまいと、女は必死に抵抗した。
人がらの、たをやぎたるに、強き心をしひて加へたれば、なよ竹の心地
して、さすがに、折るべくもあらず*―
無理やりってのは、さすがに酷かな
光は苦笑すると、小さな手をとって唇に押しあてた。
「指だけなら、許していただけますか?」
その感触に、女がひるむ。
「恋だってきっと負けないと思いますよ。貞操の義務に」
きゅっと抱かれて、また持ち上げられそうになった
危ないとしがみつく。
光はその手を離さなかった
そうさ
怖いなら離さなければいい
身を任せて、俺を頼りきればいいんだと思う。




