8-2 この子のしあわせ
「妊娠、したみたいなんですの」
葵から久々に文が届いた。
字がすこし、揺れている。
「そうですか…ご出産はいつ頃?」
「来年の夏頃だと思いますわ」
「それは、暑いのに大変ですね。お体を大切になさってください」
朱雀は葵の身を案じた。
出産ってどんなものなんだろう?
とてつもなく痛そうで、想像がつかない。
ともかく
「おめでとうございます。俺も安産のお祈りをしますね」
お祝いを言わなきゃと思った。
「おめでたいかどうか、わかりませんわ」
「お子さんができるのは、縁の深いしるしだと思いますよ」
「そうでしょうか…」
葵は嘆息した。
何と言ったらいいか、わからない。
「海の王様と姫君にも、子はできますの」
「はい、たぶん。たくさん生まれて王様苦労してますよ、きっと」
ふふふ…
子煩悩な王様が、てんやわんやで子育てする姿が目に浮かんだ。
「私に何かあったら、この子を頼んでもよろしいですか」
葵はつとめて平静にきいた。
朱雀が「ん?」と思う。
「面倒をおかけしようとは思いませんの。ただ、祈っていただければ。
この子のしあわせを、見守ってあげてくださいませんか」
朱雀は返答に困った。
妊娠って大変なんだ。何があるかわからない。
「はい。微力ながら伯父として、できる限り力になりたいと存じます」
宣誓文のように書いた。
「ありがとうございます、これで安心ですわ」
葵の筆は本当にうれしそうだった。
何も、おこらないよね?
朱雀の胸がふと、不安に塞ぐ。
「ご気分のすぐれない時は無理なさらないでくださいね。
文はいつでも、お待ちしてます」
やさしい言葉で筆をおいた。
葵の無事を祈っていた。




