8-1 もう会えないの
八.葵
おほかたに花のすがたを見ましかば露も心のおかれましやは*
やましくない心で、あなたの姿を見られたならば。
花宴から二年が過ぎた
すでに朱雀の御世になっている。
光は何ごとも面倒くさく、地位は重く、外歩きをしなかった。
ただ藤壺ひとりのことを、ずっと心に想い続けている。
父は隠居して、彼女とふつうの夫婦のように暮らしていた。
だから会うことはおろか、文すら出せない。
「私の弟が大切にしていた人なんだよ、どうして軽々しく扱うのだ」
六條御息所と呼ばれる人がいた。
慎みぶかく教養があり、大人で、若い男が交際するには魅力がある。
光も十代の頃、一時期はまった。
今はもう、あまり会わないけれど。
「人のため、恥ぢがましき事なく、いづれをも、なだらかにもてなして、
女の恨みな負ひそ」*
父が言うのでかしこまって、内心失笑してしまった。
女の恨みを負うなだって?
誰のご寵愛のおかげで母が死んだと思ってるんだよ。
兄が言うならまだしも、父にだけは言われたくないと思う。
淡く聞きなして退出した。
幸せそうな厚顔に腹が立っていた。
「車争い?なぜそんなことを」
光は嫌になって眉をひそめた。
いい歳した女同士が、醜いことだ。
「いいよ、俺はこの子と見るから」
紫を抱いて車に乗った
祭はふたりで見物する。
包まれるようなやさしさがほしくて、年上を愛すのに。
なぜこうも醜く、プライドぶつけあうんだろう。
藤壺ならこんなこともないだろうに。
簾垂もあげず、紫と乗った
明るく笑って時を過ごす。
楽しかった
彼女にはもう、会えないのだろうか。




